最大の敵
【戦争の始まり】
それは大袈裟な表現では無い。
前々から気にしていたファンタズマに歯向かう巨大な敵が存在する。
この敵とは5年ほど前から戦い続けているが、ここ4ヶ月間沈黙を守り続けていたのだ。
その敵が遂に始動した。それはファンタズマにとっての最大の驚異である。
今隊長で年の若い者が大半なのも、この敵との戦いでウィクレッタも命を落とした為なのだ。
ヴィクナもそんな戦乱の中で隊長の座についた。
「奴らは相変わらずお国の政治が気に入らないのかね?」
ヴィクナは人指し指を唇に当てながら上目使いで考え込む。
「だろうな。今の世界の政治は全て議員によって決められてる。その議員が果てしなく気に入らのだろう」
ケイルは相変わらず資料とニラ目っこをしながらヴィクナを見ずに答えた。

ここで今の国の政治体制について話そう。
この国、いやこの世界は各国の代表が集まり、話し合うことにより政治方針を決め、世界統一で1つの政治を執り行っている。
つまり世界が国であり、その中にいくつかの小国が日本で言う都道府県と同じ立場で成り立っているのだ。
ファンタズマを抱える国とは世界の事を指すのである。なかなか面倒臭いが、国がいくつもあつまって大きな国という集団になっていると考えてくれていいだろう。
今の国の政治方針は平和主義だ。出来るだけ話し合いで解決し、無理ならばファンタズマが始動し武力で鎮圧する。
一見完璧な平和に見えるが、世界の小国36ヶ国の代表である36だけで国を動かすには国民の人数が多すぎる。つまり平和主義の手が回らない所が存在するのだ。
それを気に入らない人間が多く存在し、テロリストの犯罪は跡を絶たない。
それらの集団の鎮圧にもファンタズマが出動し、実力行使で叩き潰す。
それにまた平和主義への疑問が産まれ新たなるテロリストを産み出す。堂々巡りの嫌な世界情勢なのだ。
そのテロリストの中で最も巨大で最も驚異なのが今回の敵、【ドリミング】なのである。
ドリミングの目的は国の議員の抹殺及び政治権の略奪。その目的の大いなる障害となるファンタズマの壊滅だった。
「アイツらが動き出したならうかうかしてられないね」
ヴィクナはくるりと後ろを向くと、スタスタとケイルの部屋から出ていった。
エレベーターで下に降りながらヴィクナは考える。
3ヶ月前に新入隊員達に言った"正義"と"悪"の定義の話。
あれはこの戦いの為の話でもあった。
ドリミングは今の国の中ではテロリストという存在になる。
国から見たらドリミングは完璧なる"悪"だった。
しかしドリミングの目的も世界の平和を願っての行為。それはドリミング側にとっては"正義"で、自分達は悪なのである。
「敵に…無駄な情けをかけなきゃいいけど…」
まだお人好し感が抜けきらない新入隊員の顔を思い浮かべて思わず溜め息を溢す。
相手が純粋に信じる"正義"に、もしかしたら呑まれてしまうかもしれない。
不安を抱えつつ、ヴィクナは隊舎で報告を待つ隊員達の元へ駆け出していった。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!