戦争の始まり
談話室に入ると、殆んどの隊員がそこにいる様で、広々とした談話室が非常に窮屈に感じられた。
なんとか空いていたソファーに腰を掛けると、この非常事態について話し合う。
「ゲルゼールが殺られるなんてね…」
「ホント…びっくりだよ」
「嫌な予感がするな…」
シルハ達は口々にこの事件に対する意見を述べていた。
「ところで、任命式って何かな?」
レイチェルは先程男が言っていた事を思いだし、2人に質問する。
「さぁ〜…」
シルハは眉間に皺を寄せながら考えていると、向かい側に座っていたアンケルの男が話を聞いていたのか、説明をしてくれた。
「任命式ってのは役職を任命する式さ。ゲルゼールが1人死んだから、別の奴をゲルゼールに任命するのさ。まぁ昇進の儀式だな」
「へぇ〜…」
シルハは説明を聞いて頷く。ゲルゼールは各隊に4人と決められているので、欠員は早急に補充しなければならないのだ。
「5番隊は大荒れだろうな…、ルチル隊長も大変だ」
アンケルの男は、ふぅっと息を吐きながらソファーの背持たれに体を預けた。
「ルチル隊長…?」
「5番隊の隊長さんだよね…」
シルハとレイチェルは顔が思い出せずに奮闘する。
入隊式で一回見て以来3ヶ月まったく交流が無かったのだから仕方ないと言えば仕方ない。
「黒い髪に水色の瞳、かなりの美人だけど超怪力で男嫌いときたもんだ。結構曲者隊長だぜ」
アンケルの男は悩むシルハとレイチェルに助け舟を出す。
「シルハ君…思い出せる…?」
「全っ然」
シルハはレイチェルの問いに両手で「×」印を作りながら答えた。
外見的特徴を言われた所で脳味噌から完璧に情報がデリートされている。シルハとレイチェルの頭上には「?」が浮かぶばかりだった。


「ケイル!!」
ヴィクナはノックもせずに勢いよくケイルの部屋のドアを開けた。
「ヴィクナ、戻ったのか」
ケイルは突然の来訪に目を丸くした。
「戻ったのかじゃないよ!ゲルゼールが殺られたって?」
ヴィクナはケイルの机までつかつか歩いていくと、思いきり机を叩く。
バンと激しい音と共に机に詰まれた資料が床に数枚散らばった。
「あぁ…どうやら遂に動き出したようだな。」
ケイルは椅子から立ち上がり、床に落ちた資料を広いながら答えた。
「最悪。ホントに嵐の前の静けさだったわけか」
ちっと軽く舌打をしてヴィクナは手で前髪をたくしあげる。ヴィクナの白い肌から汗が滲出て来ていた。
「空白の4ヶ月…奴らはまた力を付けてきただろう…」
ケイルは資料を広い集め、また椅子に座ると資料に目を通す。
ヴィクナはしばらく黙って様子を伺っていたが、我慢しきれずに声を荒げて会話を切り出した。
「ナナハからの連絡は!!?」
「ここの所全く無い。通信が途絶えてほぼ2ヶ月だな…」
ケイルは苦虫を噛み潰したような顔をした。
ヴィクナもイライラした面持ちで長く伸びた爪を噛んだ。
「生きてるかな…」
「微妙だな…」
ナナハとは2番隊のゲルゼールだ。単独任務に出ているが連絡が途切れて2ヶ月。生きている保証もなくヴィクナは更に強く爪を噛んだ。
「取り合えず、臨戦態勢に入った方が良さそうだね」
ヴィクナは真面目な顔をしてケイルに尋ねる。
ケイルも真顔で大きく頷いた。
「戦争の始まりだな」

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あきゅろす。
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