暗雲の予感
「はぁぁ」
空を見つめながら、シルハは盛大な溜め息を漏らす。
「月日って早いなぁ…」
「おい、シルハ。乗り遅れるぞ?」
「あ、うん!」
ルイに声を掛けられ、シルハは2番隊の車に乗り込む。
今日はよく晴れた日、シルハ達新入隊員が入隊して、すでに3ヶ月という月日がたっていた。
今回の任務を終え、本部に戻りながら、シルハはまた言葉を漏らす。
「3ヶ月かぁ〜」
すっかり任務にもなれ、魔法も大分コントロールが効くようになってきている。
あれから一度も7番隊と帰還日は被らずタピスに見てもらってはいないが、水の修行はほぼ完成に近付いていた。
そして何より変わったことは、昔は苦だった"正義"の価値観の違いが、今ではしっくり馴染んでいることだ。微妙な心境に陥りながら、シルハは車に揺られていた。


―不穏なる陰の始動―



本部につくと、何やら慌ただしく人が行き交っていた。
「どうした?」
ヴィクナは疑問に思って走っていた男を呼び止め、事情を聞く。
「あ、ヴィクナ隊長…実はこれから任命式でして」
「任命式?何処の隊だ?」
ヴィクナは険しい顔をして男に尋ねる。男は沈んだ表情をしながらヴィクナの問いに答えた。
「5番隊です。ゲルゼールのエユム・デイビルさんがお亡くなりになられたので…」
「何!!?」
その言葉を聞いていた者は全員その言葉を疑った。
「ゲルゼールが…」
シルハはたまたま会話が聞こえてしまい、信じられない気持に陥る。
今まで、2番隊でもアンケル以下の者の死亡が出ることはあったが、ゲルゼールが死んだと言うのは初めて聞いた。
「成程ね、ありがと」
「はい」
男はヴィクナに一礼すると駆け足で去っていった。
「隊長…」
「ん?シルハ、どうした?」
恐る恐る声を掛けたシルハの方をヴィクナ振り向いた。
「あの…ゲルゼールの人が…」
「うん…嫌な予感がするね…」
ヴィクナは表情を険しくして中央棟を見つめる。
「"あいつら"が…動き出した…?」
「へ?あいつら?」
シルハはヴィクナの発した言葉に首を傾げる。
ヴィクナはしばらく考えるようにブツブツ何かを呟くと、顔をあげて2番隊隊員に指示を出す。
「取り合えず全員隊舎で待機してろ!アタシはケイルに事情を聞いてお前らに報告する!」
そう叫ぶとヴィクナは駆け足で中央棟にいるケイルの所へ向かった。
「どうしたんだろ…?」
不安そうな顔をしながらレイチェルは行き交う5番隊の隊員達を見つめる。
「わからない…取り合えず談話室で待とう」
シルハはレイチェルとルイに声を掛け、隊舎へと向かった。
いいしれぬ不安が心を鉛のように重くする。
気付かないフリをして不安がっているレイチェルを慰めながら談話室の中に入っていった。

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あきゅろす。
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