殺すだけ
全ての部屋の確認を終えると、隊員達は全員研究所の外に出た。
「タピス、これがウィルスよ」
冷凍ケースに入れられたウィルスをフロウィはタピスに見せる。
「あぁ、ありがとな」
タピスはケースを受けとると、ゆっくり呪文を唱えた。
「《燃え盛る鳥は空を赤く染め行く》」
呪文と同時に真っ赤な炎を纏った美しい鳥が出現し、一気に研究所に火の手をあげる。鳥の美しい鳴き声と共に、研究所は赤々と燃え出した。
「……もう…寒くないか…?」
激しく燃える炎の熱を皮膚に感じながら、痩せほそった少女へ声を掛ける。
「…帰るぞ」
「…はい」
空まで赤く焦がす炎を背に、7番隊は本部へ帰還するために車へ乗り込んだ。
「結局、生存者は0だったな」
車に乗ったタピスは溜め息混じりに声を漏らした。
「そうね、拉致された人、105名全員死亡。嫌な結果だわ」
フロウィも溜め息をつきながらその言葉に答える。
「取り合えず任務成功だな」
「取り合えず…ね」
フロウィはタピスの言葉の『取り合えず』を強調する。成功はしたがあまり気持のよい任務成功ではなかったからだ。
「一人くらい救いたかったわ」
沈んだ顔をしながらフロウィは空にかざした自分の手を見つめた。
「ホントに…殺すだけの力ね…」
「…」
どんなに強い魔力を持っても、ただ自分の魔法は人を殺すだけ。たった1つの命も救えない。
タピスはさっき少女に握られた手を見つめる。確にあった命はいともあっさり自分の目の前で消えていった。
「…救うのは…大変だな」
殺すのはあんなにも簡単なのに、救うのはなんて難しいのだろう。タピスは手を握り締めるとフロウィを見つめた。
「…そうだね…」
フロウィはタピスの意見に賛同しながら自分の手を胸に当てる。
「大変だね」
未だ赤々と燃え盛る建物が崩れ出した音を聞きながら、7番隊の車は本部へ帰還するために走り出した。
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