名も知らぬ少女
そこに横たわっていたのは一人の少女だった。
15・16程だろうか? しかし、体はガリガリに痩せほそり、衰弱しきっていた。
「大丈夫か?」
タピスは少女の痩せほそった顔を優しく撫でる。すると、少女は薄く目を開けた。
「あったか…い」
「今外に出してやる」
タピスはそう言うと、少女をくるんでいる布団に手を掛けた。人がくるまっているハズなのに、体温などみじんも感じない。
タピスは眉間に皺を寄せながら、布団を捲る。
「…!!」
しかし、少女の体を見ると所々が腐敗し、足は完全に腐っている。よくこれで生きていたものだとタピスは思わざるをえなかった。
「お…兄…さん…?」
少女は薄く開けた瞳でタピスを見つめる。
「寒い…の…手を…貸して…」
少女は震える手でタピスの手を握る。氷の様に冷たい手をタピスは優しく握りかえした。
「暖かいとこに行こう?」
優しくタピスは少女に声を掛ける。しかし、少女はゆっくりと首を横に振った。
「こん…な姿で…外…出たく…ない…」
腐った体でなおも命を繋いでいた少女は、かすれた声で精一杯の気持を伝えた。
「どうせ…もう…世界は眩し過ぎるもの」
乾ききった体をした少女は悲しそうな瞳でタピスを見つめたが、涙を流すことはなかった。
「お…水」
「あぁ…待ってろ」
タピスは握っていた手をほどこうとするが、この少女の何処にこんな力があるのかと思うくらい強く手を握られ、水を取りに行けない。
「おい…」
「ねぇ…」
「……ん?」
タピスがほどこうとしていると、少女はタピスに声をかけ、タピスは優しく反応した。
「ここは寒いの…終わったら…燃やして…暖かくして…」
少女は声に成りきらない声を振り絞って懸命にタピスに訴えた。
「…わかった…約束する」
「あり…がとう…」
ホッとしたように少女は笑顔を作ると、そのまま力を無くし、眠ったように瞳を閉じた。
少女の乾ききった筈の体、しかし、最後に少女は美しく透明な涙を流した。
「暖かくしてやるから……」
タピスは名も知らぬ少女の最後を見届けると、矧がした布団を掛け、廊下へと出ていった。
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