"あいつら"
中央棟の最上階、ファンタズマ内で最も太陽に近い場所。そこにケイルの部屋はあった。
中央棟のエレベーターから最上階の15階に辿り着くと、ケイルの視界に少女が飛込んでくる。体の割に大きな三角帽子を被り、短い金髪は肩の上で軽く外にはね、つり目気味の青い瞳を持つ小柄な少女。
「仕事さぼってどこ行ってたのかな? 総部隊長様」
「俺にだって肩の力を抜きたい時くらいあるさ」
「そだね。任務レポートまとめたよ」
ズイッと少女は分厚い資料をケイルに手渡す。
「相変わらず仕事が早いな、ヴィクナ」
「ま、走書きだから読める保証はないけどね」
クスッと笑いながら、ヴィクナは渡した資料を捲っていく。
「ホラ、これとかアタシでも読めないもん」
「なら書き直せよ…」
一枚の資料に書かれたミミズ文字を見てこれを解読するのかとケイルは溜め息をつく。
「あ、ねぇ。クルイの首の確認は?」
「した。イリーナが今、死んだ同胞と一緒に丁重に葬っている」
「…ありがと…」
ヴィクナは少し目を伏せてケイルにお礼をした。
「当然だ。仲間だからな」
ケイルはヴィクナの肩を軽く叩くと、部屋に入ろうとドアを開ける。
「ねぇケイル」
「ん? どうした?」
ヴィクナの呼び掛けに立ち止まり、後ろを振り返った。
「"あいつら"の動きは?」
ヴィクナはいつになく真剣な表情で尋ねる。
「…今は不気味なほど何も無いな」
ケイルは眉を潜めながら下を向く。
「嵐の前の静けさ…とでも言うのか…」
「あのさ」
「なんだ?」
ヴィクナの呼び掛けにケイルはヴィクナを見るために顔を上げた。
「隊数…増やさない? もしそうだとしたら今のままじゃ厳しくなるかも…」
ヴィクナは珍しく遠慮がちにケイルへ提案をした。
「…そうだな……考えておこう」
ケイルは"あいつら"の事を考えているのか、適当に返事をすると部屋に入ろうとした。
「あ、ヴィクナ」
「ふぇ?」
帰ろうとしたヴィクナをケイルは後ろを振り向きながら引き留める。
「何?」
「さっきシルハ君に会ったぞ」
その瞬間、ヴィクナの顔色が変わり、険しい表情になった。
「…どう思う…?」
「正直、ビックリだな。まぁ4年前にも1度会ったがあの時も驚いた」
ケイルはシルハの顔を思い出しながらヴィクナに返答する。
「だかなヴィクナ…」
「肩入れするなでしょ? 分かってる。この前タピスにも言われた」
ヴィクナは不機嫌そうに顔を歪める。ケイルはその顔をみて、やれやれという表情をつくった。
「分かってればいい。じゃぁさっきの事は検討しておく」
「うん、よろしく」
会話を終えると、ケイルは部屋のドアを閉め、ヴィクナは自分の部屋に帰るためにエレベーターのボタンを押した。
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