新たな決意
美しい庭園でリラックスをしていたシルハの体に稲妻が走った。予期せぬ再会に思考が停止する。
「ケイル…隊長」
シルハはかすれた小さな声でこれだけ言うのが精一杯だった。
「やぁ…2番隊の隊員か?」
「は、はい!!」
シルハが緊張した面持ちで返事をすると、ケイルは目を細めて優しく笑った。
「はっはっはっ、そう緊張するな。せっかくこんな綺麗な所にいるんだからリラックスしてくれ」
4年ぶりに聞いたケイルの声は変わらず優しく響く。シルハは不思議と緊張感が引くのを覚えた。
「ケイル隊長はここで何を?」
思いがけない場所で出会した為に、シルハは失礼を承知で質問をした。
「ん? リラックスしにさ。ここの花はイリーナが手入れをしてくれてるんだがな。心が落ち着くからよくここに来てるんだ」
ケイルは花を見つめながら質問に答える。
「ここって…静かで落ち着きますもんね」
「だな」
シルハとケイルは目を合わせてからにっこりと笑いあった。昨日の戦闘が嘘のような、穏やかな時間が流れる。
「…キミ…どっかで会ったよね…」
シルハの顔を見ていたケイルがふとシルハに尋ねた。
お…覚えてた!!?
「はい!! 覚えてて下さったんですね!」
シルハは嬉しくて頬を紅潮させながら元気よく返事をした。
「やっぱな。見た顔だと思った。えっと…名前は…」
「シルハです。"グルイケ町"の」
「あぁ、"グルイケ"かぁ。4年位前だったよな。あれから町は平気か?」
「はい!!」
シルハは緊張感など完全に忘れ去り、代わりに興奮で心が踊った。
憧れの人が只の子供の顔を覚えていてくれたのだ。シルハは嬉しくて頬の筋肉がだらしなく緩むのを感じた。
「約束…守ってくれたんだな」
「はい! やっと入隊する事が出来ました!」
シルハはまるで4年前にタイムスリップしたようにはしゃぎまくる。まさか約束まで覚えていてくれたとは。
「頑張ってくれな。俺はそろそろ戻るから、ゆっくりしてろ」
「はい! ありがとうございます」
最後にケイルはシルハに笑顔を向けると、背を向けて中央棟に帰って行った。
シルハはケイルの姿が見えなくなるまで背中を見つめ続けた。
4年間抱いた憧れは更に強まる。やっと入隊した目的を果たすことが出来た気がした。
しかし、追い掛け続けたケイルの背中は未だに遥か遠いい。
「…っ!」
シルハはぐっと拳を握り締める。新たな決意が胸に沸くのを感じた。
「…追い付かなきゃ」
見つめるだけじゃ駄目なのだ。憧れて、それで終わるのではない。追い付かなければいけないのだ。
「うっし!!」
シルハは両頬をパンパンと手で叩いて気合いを入れると、隊舎に向かって駆け出した。
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