対面
「う〜ん…」
「くぅ〜…」
「どりゃぁ〜…」
「はぁぁぁぁぁぁ―…」
「ぶはぁっ!! 駄目だぁ〜!!」
シルハは洗面器の上にかざしていた手を上げて、降参のポーズを取った。
「情けないぞ…シルハ」
「もうちょっと頑張れ〜」
その様子を見守っていたルイとレイチェルは口々に励ましの言葉を述べる。
え? ルイのって励まし?
「昨日はコントロール出来たのになぁ…」
シルハは自分の手と、水の張った洗面器を交互に見つめながら唸った。
本日帰還した2番隊は今日1日は自由ということで、シルハはタピスに言われた修行の真っ最中だった。
「やればやるほど下手になってる…?」
シルハは目を細めながら顔を歪める。今日始めにやったときはもうちょっとで出来そうだったが、やるうちに水の集まりが悪くなり、現在ではただ、水がバシャバシャ音を立てて揺れるだけだった。
「おかしいなぁ…」
昨日魔法が使えたのは、どうやら生死を賭けて神経が研ぎ澄まされていたかららしい。今じゃボロボロなのがいい証拠。
「集中力切れちゃったのカナ?」
「少し休むか?」
レイチェルとルイは余りに惨めになり続けるシルハに休憩と言う案を出した。
「そだね…ちょっと外の空気吸ってくる」
シルハは立ち上がると、フラフラと部屋を出ていった。
―始まりの余興―
外は晴天、ポカポカとした太陽に見守られて、シルハは両手を上にあげて伸びをしながら空をボーッと見つめた。
雲は気持よさそうに青い空に浮かび、鳥達は楽しそうに歌いながら悠々と飛んでいる。
「平和だなぁ…」
今ファンタズマに2番隊しか居ないところをみると、決して外は平和ではないのだろうが、ここで空を見つめているとついそんな錯覚に陥った。
「…あれ?」
空を見ながらボーッと歩いていたために、いつの間にか中央棟の方まで来ていた事に気付く。キョロキョロと辺りを見回してから、はてと首を傾げた。
「隊舎の裏庭散歩してたハズなのに…お?」
さらに見回し続けていると、視界に美しい花々が飛込んできた。シルハは無意識に花の方に足を進める。
「わぁ〜、綺麗〜」
そこには見事に手入れをされた美しい庭園が広がっていた。
「中央棟の庭かなぁ…?」
隊舎の庭は戦闘が出来るようにと粗雑な作りだが、中央棟なら別に戦闘をする必要もないから、美しく手入れが出来るのだろう。
「ヤバっ! 良いとこ見つけた!!」
青い空に美しい庭園、花のいい香りが漂い、リラックスするには最高の場所だった。
「はれ…?」
シルハはのんびり庭園を散歩していると、一人の人物が目に入った。
「あ…」
その人物を見た瞬間に、シルハの心臓は破裂するのではないかと疑うくらいに高鳴った。
血が一気に駆け巡って息が苦しくなる。
シルハが目にした人物はどうやら花に水をあげているようだ。
少し長めの青い髪が風に乗って揺れる。ふとシルハに気付き、その人物は顔を上げた。
黄色い瞳がシルハの目と合うと、シルハは一瞬心臓が止まった。その人物とは、シルハの憧れの存在。そしてファンタズマに入るきっかけを作った存在。
総部隊長ケイル・ノルーザだった。
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