ただ一言
 ファリバール達を見送ってから、ギージットンは再び車内に戻った。

「すみません、お待たせ致しました」

 ピゼットの頭側に座り込んでいたルヴォークに声を掛けると、おうっと短い返事をして彼は立ち上がる。

「ほんじゃ、いっちょやりますかね。隊全体に帰還準備の号令掛けてきな。流石の俺様でも、準備には時間掛かるからな」

 腕を伸ばしたり首を回したりして体を解しながら、ルヴォークは車の外へと出ていった。ゲルゼール達は頷きながら、彼のあとに続いて共に外に出る。それから、隊全員を召集し、テント等の片付けなど、帰還準備を命じた。

 ルヴォークはその間、魔力を大きく膨らませ、巨大なゲートを築いていく。1隊を一度に運べる程の巨大な道。常人では、そんな巨大な魔力を魔法に変換するだけでも一苦労。その魔法の規模と完成度は、彼の右に並ぶものなどこの世に一人もいないのではないかと思われるほど。それほどの常識外な空間移動。

 完成と同時に、ピゼットとハルの遺体を乗せた車が動き出し、本部への帰路を辿る。本部内へは魔法遮断の防御壁が張られているため直接は入れないが、門前まで一気に運んでもらえる。この時間短縮はピゼットの肉体負担を考えればありがたいもの。

 続いて、隊員達を乗せた車も黒い靄に吸い込まれるように中へと入っていく。その靄を抜ければ、我が家ともいえる本部が目の前にあった。

 最後にルヴォーク自身がその靄を潜り抜けると、オマラージュの街の前から、巨大な組織の一子隊が完璧に姿を消した。まるで何もなかったかのように。
 静かな世界は、彼らが来る前と全く同じ景色だけが広がっていた。たくさんの死に悲しんだ空気すらも、彼らと共に風に消える。確かにここで息づいた証など、見付けられないかのようだった。




 本部に着くと、もう日はほぼ姿を隠してしまっていた。
 到着を待っていた医療スタッフたちに、ピゼットは急いで運ばれていく。ギージットンはルヴォークに再度礼を述べると、ハルや他の隊員達の弔いのために動き始めた。残りのゲルゼールはピゼットに付き添い、彼を運ぶベッドと共に駆け足で病室へと向かう。

 終わった。全てが。行方不明者の捜索と原因の究明。誰一人、行方不明者の犠牲者はいない。表向きには成功と言える任務。
 だが、現状はそうではない。9番隊は、崩れかけていた。誰よりも隊の支えであった男が一人目を開けないだけで、何百もの隊員が落ち着けない夜を過ごすことになるだろう。例え同じ現状でも、あの男が笑って、大丈夫だと、ただ一言そう言ってさえくれれば、どれだけの心が救われるのだろうか。

「隊長…」

 目を開けぬ男を思い、呟く。その声は掠れ、重い色を帯びて床へと落ちていった。




to be continued...

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