未来へ走る
 話を終えたファリバールとシェリは、車を降りて外へと出た。暗い雰囲気が包む広場を見つめていると、見送りに来てくれたギージットンが後から続いて外に出てくる。

「無理を聞いてもらって、ありがとう」

 ファリバールは振り向くと、ギージットンへ向かって微笑んだ。ギージットンはふるふると首を振ると、少し遠くへ視線をやる。

「いえ…こちらこそ来ていただけてよかった……」

 最初は困った申し出をしてくれるものだと思ったが、結果的に彼が来てくれて良かったと今は心から思える。

「実は……ピゼットも貴方と同じで、村の者達から忌み嫌われ、蔑まれていた過去があります」

 突如口をついて出た言葉に、ファリバールとシェリは目を見開いた。ギージットンは二人を見ぬまま、更に言葉を続ける。

「実の親すらも彼を愛さず、彼は村人の憎悪を一身に背負っていました。その憎しみや畏怖の感情から、彼はその心に悪魔を育み、村を破壊してしまったんです」

 その言葉に、息を飲む。あの隊長の様子からそんな過去は読み取ることが出来なくて、ファリバールもシェリも、何も言えずに困惑した。

「心を閉ざし、ファンタズマに拾われた当初、誰とも口をきかず、自分を嫌い、人を憎み、子供とは思えないほど暗い目をしていたと言います」

 どうしてそんなことを伝えるのか。どうして、そんな辛い過去を、あんなにも綺麗に隠し通せてしまうのか。二人は、黙って紡がれる昔話を聞く。なんと言えばいいのかわからないと言うのは、きっとこんなときのことを言うのだと思いながら。

「ですが、彼は理解者を得て変わることが出来ました。ファンタズマに来て、産まれて初めて楽しいって、嬉しいって、こういうことを言うんだと知ったと、ピゼットが以前言ったことがあります」

 少しだけ、ギージットンの声質が明るくなった。見ると、小さく口元を微笑ませている。

「ファリバールさん、あなたにはシェリさんと言う理解者がいる。貴方がそう決心したのなら、きっとシェリさんの力を借りながらも、変わっていけます。ピゼットが、その手助けが出来たと知れば喜ぶでしょう」

 やっと彼らと視線を交えると、ギージットンは微笑んだ。

 ふと、ファリバールは隣に居るシェリを見る。シェリは視線を感じたのか、少し気恥ずかしそうに視線を交えた。

「うん、そうだね」

 ファリバールは微笑むと、シェリに体を向ける。シェリもなんとなくその動作に飲まれて彼に体を向け、二人して向かい合った。

「これからも傍にいてね、シェリ」

 屈託のない笑顔から放たれた言葉に、シェリは恥ずかしそうに視線を泳がせてから、ゴホンと照れを誤魔化すように咳払いをする。

「まぁ、アンタは私が居ないとなんもできないもんね。幼馴染みとして、これからもずっと一緒にいてあげるわよ」

 頬を赤らめながらも、少々ぶっきらぼうに放たれた言葉に、ファリバールは首を傾げた。

「幼馴染みとしてだけ?」

「え?」

 いきなりの問いかけに、シェリは目を丸くする。

「俺はシェリ以外の人と一緒に居るなんて考えられないし、シェリが誰かのモノになるのも嫌だな」

 少し拗ねた口調の言葉に、シェリの顔はみるみるゆで上がっていった。突然の光景に驚きつつも、ギージットンはその微笑ましい光景に思わず目を細める。

「ちょ、それって…」

「ん? 告白…?」

 真っ赤なシェリがなんとか言葉を紡ぐなか、ファリバールは至って通常の表情で首を傾げた。

「さ、最っ低! ムードも何もないじゃないっ!」

「あははっ! ごめん」

 ゆでダコのような顔のシェリの文句に、ファリバールは楽しそうに笑うと、ギージットンへ目を向ける。

「じゃぁ俺たちはここで。ピゼットさんによろしく」

「はい」

 目の前の光景に笑いを堪えていたギージットンは、笑みを広げながら頷いた。

「じゃぁね!」

「コ、コラ! 待ちなさいよファリバール!!」

 楽しげに笑ったまま、ファリバールは手を振って走り去る。シェリはそれを見て、慌てて後を追い掛けていった。

 あの二人は、きっと手を取り合って、うまく歩き続けられる。シェリが居れば、ファリバールも道を見付けていけるだろう。
 ギージットンはそんなことを考えながら、追いかけっこをしながら遠くへ消えていく二人を見送った。

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