乱される心
「……本当に傷事態は致命傷ではないんです…。ただ、長期戦による出血過多と、精神面に負ったダメージが大きくて、今意識不明の状態です。暫くは目を覚まさないでしょうし、会っていただいてもお話していただくことが出来ないんです…」

 その言葉に、二人は目を見開いた。

「そう…か…」

 ファリバールは目を伏せ、言葉を探す。

「あの…やっぱり危険な状態の…!?」

 シェリもあたふたしながら、ギージットンにさらに詰め寄った。ギージットンは、その問いにゆっくり首を振る。

「今はなんとも…」

 その言葉に、シェリも表情をみるみる曇らせた。

「すみません…」

 ギージットンは、その二人の様子に頭を下げる。二人は、その姿に慌てたように首を振った。

「喋るように強要したのは俺だから…謝らないでください」

 ファリバールはそれから、頭を垂れるギージットンの肩を叩いて、頭を上げるように合図する。ギージットンは頭を上げたが、その時空気が動いて、そちらへ急いで目を向けた。

 何もない空間に突如亀裂が走る。そこから黒い靄がもくもくと溢れ出した。

 シェリとファリバールは、その光景に驚いて数歩後退しながら目を見開く。一瞬警戒に眉を潜めたギージットンは、その覚えのある魔力の波長に体から力を抜いた。

 注目を集めるその黒い靄の中から、男が姿を現す。灰色の混じった薄茶色い短髪に、綺麗に整えられたひげを生やした40代ほどのダンディーな男。細身でどこか余裕を携えたような飄々とした佇まい。

 ギージットンはその男へ、敬礼を捧げる。

「ルヴォーク隊長、お久しぶりです」

 出てきた男は、ギージットンの姿を見るとにやりと笑みを広げた。シェリとファリバールは、事態が理解できずに困惑の表情を浮かべる。

「どう、なさったんですか?」

 突然の3番隊隊長の登場に、ギージットンも疑問を隠せない。

「どうしたとは酷いな。あんたんところのお嬢さんから本部にピゼが負傷って連絡来てな、ちょうど任務明けで居たから駆り出されたって訳だ。感謝しろよ」

 にやりと微笑むその表情に目を見開いてから、バッと頭を下げる。

「ありがとうございますっ! 今車におりますので…」

 ギージットンは顔を上げると、車が止まっている方を指しながら言った。
 空間移動が得意なルヴォークだ。1000人もの人間を一気に別空間へ運ぶことができるその魔法の完成度は、他の追随を許さない。ピゼットは一刻も早く治療が必要な身だ。ルヴォークが居たのは運が良かった。これで直ぐに本部へ運べる。

 ギージットンの顔が晴れやかになり、急いでピゼットの元へと案内しようと足が無意識に動き出す。

「待って、俺も会わせてっ!」

 急な男の登場に呆けていたファリバールだが、ギージットンに動きが見えたことで慌てて彼の逞しい腕に触れた。

「なんだコイツは?」

 ルヴォークはそのファリバールの様子に、眉を潜める。

「今回の任務に協力して頂いた方々です。すみませんファリバールさん、先程も申し上げましたが……」

 ギージットンは早口に二人を紹介してから、ファリバールに困ったように頭を下げた。

「わかってる。でも、直接言いたいことがあるんだ…!」

 彼にしては珍しく、焦った調子で言葉を放つ。ギージットンは困って眉を下げた。

「お願いしますっ、会わせてください…!!」

 シェリは身を正すと、パッと腰を折って頭を下げる。ギージットンは本当に困ってしまい、なんと言えばいいか言葉を探した。

「いいじゃねぇの会わせてやれば。それよか、早く案内してくれや」

 ルヴォークは髪と同じ色をした自身の顎髭を撫でながら、面倒そうに口を開く。

「は、はい…わかりました……。では、こちらです」

 ギージットンはその言葉に頷くと、そそくさと車へと足を動かす。その後にルヴォークが続き、シェリとファリバールは一度顔を見合わせてから、駆け足で彼らに着いていった。

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