来訪の困惑
 隊員たちの待機する街の前の平野へ足を運ぶと、そこに満ちた雰囲気は暗いものだった。任務前の、気の抜けたようなのんびりとした気配は息を潜め、ただ重苦しい色が辺りを支配している。

 死体を回収し終えた仲間たちも戻ってきており、息苦しいほどの悲しみが世界を包んでいた。

 急いで車に戻ろうと、二人は早足でその世界を抜けていく。

「ギージットンさんっ!」

 だが、そんな歩調も一人の女性の声で遮られた。はっとしながらそちらに顔を向けると、駆け寄ってくる3つの影が見える。その中の一番早い影がさっさとこちらに駆け寄ってくると、ギージットンの周りをくるくる回り出した。少し長い金茶色の毛をした、ゴールデンレトリバー。

「レコットか?」

 見覚えのあるその犬に、ギージットンは目を見開く。人影が遅れて駆け寄ってきたが、その影は予想通りこの犬の飼い主のものだった。

「よかった! 任務が終わったと聞いたからもう帰ってしまったかもって、慌てて来たの」

 ベージュの長いお下げを揺らしながら駆け寄ってきた女性、シェリはギージットンの前で止まると、にこりと笑みを広げながら胸を撫で下ろす。レコットは直ぐに彼女の傍に寄ると、尻尾を振りながら彼女の太ももに鼻面を押し当てた。

「シェリさん、それに…」

 ギージットンはその登場に驚いたように目を見開きながら、シェリの背後に居る人物へも目を向ける。

「ファリバールさんも」

 少しゆっくりしたペースで、あとからやって来たファリバールもにこりと微笑む。なぜ彼らがこんなところにいるのか。ギージットンは首を傾げながら二人を見つめた。

「事件が解決したと街が騒いでたから、任務が終わったんだなと思ってご挨拶に」

 ファリバールは美しい顔を微笑ませてギージットンと視線を交える。

「じゃぁギージットン、私は先に行ってるわ」

 最初は訝しげに見つめていたシェリンダも、「ファリバール」と言う名前を聞いて納得したのか、ギージットンへ声をかける。作戦会議の際、ファリバールと言う人物と話をしてきたことは伝えてあるため、名を聞いて直ぐに正体を把握したのだろう。

「あぁ、頼む」

 ギージットンが頷くと、シェリンダは二人に軽く頭を下げてから、駆け足で車へと向かった。

「今の女の人は…?」

 一緒になって頭を下げ、走っていくシェリンダの背中を見送っていたシェリは、首を傾げながらおずおずとギージットンへ尋ねる。

「あぁ、今のはゲルゼールのシェリンダ・ロファンと言うものです」

 ギージットンの紹介を受けると、二人は「はぁ〜…」と頷きながら再度彼女の背を見つめた。

「それで、どうなさいました?」

 ギージットンはあらかた話の区切りが出来たところで、首を傾げながら尋ねる。その質問にシェリがチラリとファリバールを見たので、ギージットンも釣られて彼を見つめた。

「……ピゼット隊長に会いたくて」

 ファリバールは注目を集めてしまったために、少しハニカミながら答える。だが、ギージットンの表情が曇ってしまったために、二人は首を傾げることとなってしまった。

「すみません…今ピゼットは人と面会出来ないんです」

 困ったように笑いながら、ギージットンは言う。二人はその言葉に眉を下げた。

「どういう……」

 不安が一気に色濃くなったようだ。二人の表情からそれが読み取れて、う〜んと言葉を唸らせる。

「この度の任務で傷を負いまして、現在治療中なんです」

 理由を話さねば引き下がりそうにないその雰囲気に、町長たちに伝えてきたように言葉を放った。

「怪我っ!?」

「大丈夫なの!?」

 すると、二人は血相を変えて詰め寄ってくる。ギージットンは一瞬目を見開いてから、直ぐににこりと微笑んだ。

「えぇ。命に別状はありません」

 その言葉を聞いて、シェリは安堵したように息を漏らした。だが、ファリバールは逆に眉を潜める。

「でも重態なんでしょ?」

 その言葉に、二人でファリバールを見た。ファリバールは険しい表情をしたまま、言葉を繋げる。

「だって、軽傷なら面会を断る程ではないはずだ。面会謝絶になるほどの怪我をしたってことでしょ?」

 その言葉に、返す言葉を見失ってしまった。シェリもハッとしたように目を見開くと、また不安そうな表情になりながらギージットンを見つめてくる。

「まぁファンタズマって公的機関だし、隊長の重態ってのを隠したいのはわかるよ。だけどさ、よく考えて?」

 ここまで真顔で話していたファリバールは、ふと顔に笑みを広げた。

「俺は街の嫌われものだよ? 俺が隊長のピゼットは重態だなんて喚いたって、どうせ誰も信じてくれない」

 その自虐とも取れる言葉に、思わず苦笑いが溢れてしまった。つまり、誰に言ったって真実を嘘ととらえられるのだから、自分には真実を話してほしいと言っているのだろう。

 ギージットンは少し視線を伏せ、どうしようか考えた。ファリバールに真実を伝えたとしても問題はないと思う。二人の反応から、本当に隊長の身を按じてくれていることはひしひしと伝わってきた。
 だが、あの飄々としてて、人に心配を掛けたがらない隊長は何と思うだろうか。

 ギージットンは目を閉じて思案しながら、ハァーっと少し長めのため息をついた。

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