暗き世界と眩しき世界



 昼も夜も真っ暗な部屋。赤い髪と、同じく赤い瞳を携えた男は、いつものように椅子に腰を掛けていた。何かを思案するように肘掛けに肘を預けた状態で、口元に手を宛がい、何もない空間を睨む。ボーッとしているわけではない。それは、ギラリと輝く瞳から誰もが理解できる。

 そんな中、外からバタバタと激しい足音が聞こえてきた。ふとドアを見ると、慌てたようなノックの音が聞こえてくる。

「誰だ?」

「アイルさん! ムーファです!!」

 扉越しに、酷く慌てた声が聞こえた。

「どうした?」

「ジュイとリーフェアルトが戻ったのですが、リーフェアルトが負傷しています…!」

 その言葉に、アイルは目を細めた。すくりと立ち上がり、ドアへすたすたと歩いていく。がチャリと扉を開けると、相当急いだのか、肩で息をするムーファが立っていた。

 彼の横を通りすぎ、すたすたと歩き出す。

「医務室か?」

「はい」

 ムーファはその質問に頷くと、アイルの後に付いて歩き出した。

「ジュイもそこに居ます」

「そうか」

 すたすたと、迷うことなく足を進めていく。走りはしないが、足の運びは普段のそれに比べて大分テンポが早い。ムーファは黙って、そんな彼の後に続いた。

 しばらく廊下を歩いてから、1つの部屋のドアを開ける。その先は眩しい光に満ちていた。いや、光が他より眩しいのではなく、白に満ちたその空間がいやに眩しく見せていたのだ。

 ざわざわとした、己の部屋とは全く逆の光を放つ世界へと身を投じる。

「アイルさん…」

 一人の医務員が、アイルの来訪に気付くと道案内をするように指を指した。その先へ目をやると、たくさんの医務員が1つの寝台を囲んでいる。その医務員に紛れて、ピンク色の髪を持つ女性も立っていた。

「ジュイ」

 声を掛けると、彼女はびくりと肩を揺らす。普段の妖艶さを漂わせた雰囲気はなく、焦りと不安が表情に満ちていた。

「アイル様…」

 名を呼ぶと、ゆっくりアイルへと手を伸ばす。腕に触れると同時に、崩れるように彼の胸へと飛び込んだ。

「ごめんなさいアイル様…ごめんなさい……」

 消えそうな声で、小さく震えながら声を紡ぐ。そんな彼女の頭を軽く撫でてやりながら、寝台へと目を向けた。

 そこには、リーフェアルトが倒れていた。袈裟懸けに切り裂かれたらしく、肩から腹まで服が避け、真っ赤に染まっている。遠目でも傷口は浅く無いことは一目瞭然だ。小さな弱々しい呼吸を繰り返し、顔からは血の気が失せていた。

 医師たちが、急いで治療の器具を揃える。

「すみません、服を脱がせますので…」

 女の医師が、アイルへ目を向けながら口を開いた。

「あぁ。容態は?」

「急を要します」

「わかった」

 頷くと、くるりと向きを変えてドアへと向かう。ジュイもちらりとリーフェアルトへ目を向けてから、アイルの後に続いた。

「頼んだぞ」

「はい」

 扉の前で、振り返らずに医師へと声を掛ける。既に傷口の消毒に掛かっていた医師たちは、顔も向けずに返事だけを返した。

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あきゅろす。
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