支配する重き悲嘆
 加勢が加わったファンタズマ側が勝利を治めるのに時間は掛からなかった。全てのテロリストを沈めた後、その場で隊員たちは並び、前にはギージットンが立っている。疲労の中に全員重苦しい表情を携え、押し黙ってギージットンを見つめていた。

 その中に、古い機械を起動させたような鈍い音が響き、ギージットンの隣の空間に亀裂が走る。そこから黒い靄が溢れ出た。
 その靄の中から、一人の女性が姿を現す。シェリンダだ。

「どうだった?」

 ギージットンは神妙な面持ちで彼女の顔を見つめた。シェリンダは、少しだけ目を伏せるとふるふると首を振る。

「やはり、ハルの小隊は全滅してたわ……。アルバナの町の前に隊員達の死体が転がっていたわ」

 それを聞いて、隊員たちが一斉にざわついた。

「静かにっ」

 それを、低く威厳のある声で制する。ギージットンのその声に、隊員たちはまた元のように押し黙った。

 隊員たちに、すでに事のあらましは伝えてある。ピゼットの負傷、ハルの殉職。そして、ハルの小隊の全滅を聞かされた隊員の表情は暗い。ただの行方不明事件の捜索、そう思っていた任務なのに、蓋を開けてみればテロリストの罠だったのだ。隊員たちの動揺がひしひしと伝わってきた。

「みな、疲れていると思うがもう一仕事だ。アルバナに居る、仲間たちの死体を回収しよう。俺とシェリンダは、各町の町長達に事の説明をしてくる。ロズ、クロフテルト!」

「はいっ!」

 名を呼ばれ、二人のアンケルが前に出た。今回、アンケルとしてリーダーに選ばれた二人だ。

「お前達に指揮を任せる。先程お前たちが連れていた隊員達を連れてアルバナへ向かってくれ」

「わかりました」

 その指令に頷くと、二人で頷きあってから隊員たちへ顔を向ける。

「先に俺たちについていたアンケルとバーサーカーはアルバナに行くから付いてきてくれ」

 整列した隊員たちへ声を掛けると、隊員たちはスムーズに動き出した。

「それからアオ!」

 黙っていたシェリンダが隊員の名前を呼ぶ。アオは前に出ると、シェリンダに敬礼をした。

「至急ザヒヌの村に戻って、アリネア達にこの事を伝えてちょうだい。それと、被害者の確認が取れたかも聞いてきて、私に連絡を」

「わかりました」

 アオは頷くと、すぐに魔法を発動してザヒヌへと移動する。アルバナへ向かう隊員たちも急いで移動を始めており、取り残される隊員たちへギージットンは目を向けた。

「残りは、オマラージュへ戻り、待機だ。帰ってきた仲間を弔う準備をしておいてくれ」

 その言葉に、一斉に敬礼を返す隊員たち。だが一様にみな悲しみの空気に満ちており、見ているこっちが苦しくなりそうだった。無理もない、多くの仲間を失った。

「まずはここベールーガの町長だな。次はアルバナの町長への事情説明か」

「そうね。時間が惜しいわ。早く行きましょう」

 ピゼットは、早く本部へ戻らねば体に負担が掛かるだけだ。出来れば、本日にでも本部への帰路を辿りたいところだ。
 ギージットンとシェリンダは頷き合うと、急ぎ足で各町長達の元へと向かった。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!