消えて、途切れる
 素早く降り下ろされた刀を、ギージットンとニーナは別々の方向に飛び込んで躱す。

「ピゼット隊長っ!」

 ギージットンは叫びながら魔力を練り出した。

「ご勘弁をっ! 《悪魔の鎖は獲物を捕らえる》!!」

 素早く流れをイメージし、魔力を媒体に形を形成する。地から勢いよく伸びてきた鎖は、ピゼットを捕らえようと襲い掛かってきた。

「皆消えろぉぉおっ!」

 だが、ピゼットは叫ぶと同時に魔力を解放する。その波動に鎖は弾き飛ばされ、粉々に四散しながら姿を消した。

「マズイよっ! あんな使い方続けたら隊長の体に負担掛かるじゃんっ!」

 ニーナは、その滅茶苦茶な魔力の使い方に焦りを覚える。

「もう負担は掛かりまくっているさ。今隊長を動かしているのは人格の暴走と言う意識だけだっ!!」

 ギージットンは己の魔法が掻き消されることなど予想していたかのように、また魔力を練り込む。
 魔力の乱用だけではない。ピゼットの下半身は、血に真っ赤に染まっていた。顔から血の気が失せ始めて居るのに、動きが止まる気配はない。これ以上彼をこのままにしておけば、本当に生死に関わる。

「ニーナっ! 同時に止めるぞっ!」

「わかった!」

 一刻を争う事態に、ギージットンとニーナはピゼットを挟み込むようにポジションを取る。

「《絡み付く柵は心の茨》っ!」

「《錯乱せし精神は靄の中へ》!」

 同時に呪文を唱え、魔法を発動させた。魔力が念唱により形を形成し、魔法となる。

 ピゼットを取り巻く空間に亀裂が入り、そこから何本もの茨が伸びてきた。同時に、ピゼットの視界が真っ白に染まっていく。ギージットンの直接動きを奪う縛り魔法。そしてニーナの感覚を奪い、動きを止めさせる幻影魔法。同時に繰り出されたその魔法たちは、確かにピゼットの体を捕らえた。

「あはははははははははっ!」

 だが、ピゼットの高笑いでその魔法達もまた掻き消されてしまった。魔力の波動が、同時にギージットンとニーナへ襲い掛かる。

「隊長っ!」

 ギージットンは焦りを含んだ声で叫んだ。これ以上の魔力の解放は本当に死にかねない。だが、感覚と言うものがないのか、ピゼットの暴走した人格は平気で自らの体を蝕ませた。

「これ以上は死んじゃうっ!」

 ニーナも魔力の圧力を、顔の前で両手を十字にしながら耐えつつ、波動の中心に居るピゼットへ叫んだ。

「情けないわよ、あなたたち」

 その時、女性の落ち着いた声が突如響いてくる。

「《怯える羊は、群がり狼を閉じ込める》」

 声のした方を向くと、空に走った亀裂から溢れる黒い靄の中から、女性が飛び出しきた。
 登場と同時に、自らの前に浮かんでいた水色に淡く発光する小さな魔方陣に手を触れる。すると、ピゼットの足元にも同じ魔法陣が出現し、光輝いた。

「簡易魔法陣、身体停止魔法陣」

 女性がそう言うのと同時に、ピゼットの体がピタリと硬直してしまう。金縛りに合ったように、目以外は全ての身体機能が停止してしまった。

「御免っ!」

 ギージットンはその機会を逃さず、素早くピゼットの懐に飛び込むと、彼の腹に勢いよく拳を叩き込んだ。

 彼の体が、浮かび上がりながらくの字に曲がる。

「かはっ」

 深く腹に食い込んだ拳は、ピゼットの意識を激しく揺さぶった。殴られた反動で口から血と唾が混ざったものが吐き出される。
 衝撃が全身に伝わり、消えていた疲労感が一気に体を蝕んだ。脳がその信号を受けとると一気に彼の意識は途切れ、そのままぐたりとギージットンへと倒れ込んだ。

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