悪魔
一気に間合いを詰めると、狂気じみた笑みを携えたまま、片手で一気に刀を降り下ろす。ジュイとリーフェアルトは、すんでのところで正気に戻ると、その斬撃を躱した。
だが、降り下ろした刀を空いた手に持ち変えると、一気に振り上げる。そのような動作は予想ができなくて、リーフェアルトは躱した反動でどかりと尻餅をついた。
「いたっ!」
尻に走る鈍い痛み。思わずぎゅっと瞳を閉じて、痛みに耐える。
だが、ピゼットがその痛みが消えるのを待つ必要はない。目の前に立った彼は、寒気を誘う笑みを浮かべながら、彼女に向かって刀を付き出した。
「リーフェアルトっ!」
ジュイはそれを見て駆ける。先程とは真逆の光景がそこにはあった。
地に伏せるのはピゼットではなくリーフェアルト。ピゼットは、今度は殺そうとする立場で立っている。駆けるジュイは、攻撃を止めさせる目的は同じでも、先程とは仲間を止めるたか、敵から仲間を守るためか、理由は大きく異なっていた。
あの状況で、こんな場面が展開されるなど予想できただろうか。動けなくなったはずのウィクレッタ。それに追い込まれるなど。恐怖に、体がすくむなど。
「《開幕せし狩りの音は獣たちの咆哮》っ!!」
緻密なコントロールなどする暇もなく、無茶苦茶に魔力を練り込んで魔法を発動した。
途端に、足元から真っ白な体毛を持った狼のような生物が姿を現し、ピゼットに向かって咆哮を上げながら駆ける。
魔力を多目に練り込めば、なんとかなってしまうのが特異魔法だ。余計な魔力の喪失は痛手だが、今はそんなことも言っていられない。
すんでのところで1匹の獣がピゼットとリーフェアルトの間に飛び込み、ピゼットの刃をその体で受け止めた。ギャンっと短い悲鳴を上げ、姿を消してしまったが、彼の動きを封じるには問題のない時間。
獣の体に刃が刺さると同時に、別の獣がピゼットに飛び掛かる。
「あははっ!!」
その獣を視界に捉えると、ピゼットは狂ったような笑い声を出した。獣の牙が首筋にそろそろ食い込む、そんな距離でも、彼からは恐怖など感じない。
「邪魔邪魔ぁああー!!」
叫ぶと、魔力を一気に爆発させた。それだけで、獣の体は吹き飛ばされ、形が形成出来なくなる。側に居たリーフェアルトも、その魔力の爆発で起きた強風に、悲鳴を上げながら吹き飛ばされた。
「みんな消えちゃえーっ!!」
高笑いを続けながら、ピゼットは叫ぶ。それは、先程まで相手にしていたウィクレッタとは、まるで別人。
「なんなのコイツ…!?」
ジュイは寒気を覚え、目を見開いた。
目の前に居るのは人間じゃない。そう、まるで
悪魔だ
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