暗闇に転がる駒
 急な崖を下ると、川が傍に流れる洞窟の入り口に着いた。魔法を使えるならともかく、人の足だけでは下れないような場所。恐らく、村人だってこんな場所にはこない。大勢の人間を隠すのには確かに都合が良さそうだったが、まさかこんな傍に隠すとは、と眉を潜めた。

「こちらです」

 アリネアに連れられ、洞窟に足を踏み入れれば、隊員たちの魔法で照らされた洞窟の中に沢山の人が転がっていた。隊員によって運ばれたのか、綺麗に寝そべらせられている者も入れば、まだ手が足りずに、そこら辺に文字通り転がっている者たちもいる。

「これは…」

 シェリンダはそれを見て、さらに顔をしかめた。
 この人間達を、必要として魔術を掛けたわけではないのは明らかだ。ならば、こんなゴミのように村人を放置したりなどしない。本当にただのファンタズマを誘き寄せるための餌とされたのだろうか。
 だとしたら、ピゼットの前に現れたのはハルの予想が当たったわけでも偶然でもなく、狙ったこと。恐らく、敵の狙いはウィクレッタだ。叩いて殺すつもりなのかは不明だが、わざわざテロリストをけしかけてピゼットを一人にしたことからも明白ではないか。

「不味いことになったわね、本当に……」

 ギージットンの焦り具合から良くない状況なのは理解できていたが、事情が判明してくるにつれて本当に良くないことが見えてくる。シェリンダは忌々しそうに辺りを見回してから、周りで作業を続ける隊員の人数をざっと数えた。

「あと15名程ここに送るわ。ピゼット隊長の居るベールーガへ吸血鬼が現れたみたいだから、私は残りの隊員を率いて至急そちらへ向かう。今村に居るメンバーも残していくから、あなたたちは村へこの人達を連れていき、事件の被害者かどうか確認をとってちょうだい」

「はいっ!」

 そこにいた全員が返事をすると、シェリンダはアリネアへ目を向ける。

「私は村へ向かい、事情を説明してくるから、あなたは適当に15人ほど見繕ってここへ連れてきてちょうだい。ここの指揮はあなたに任せるわ」

「わかりましたっ」

 アリネアは力強く頷いた。

「あと、ブロム」

 それから視線をそらし、傍で村人の世話をしていたバーサーカーの男へ声を掛ける。彼は顔を上げると、「はいっ!」と覇気のいい返事を返した。

「あなた伝令作業は得意だったわね。急いで山にいる隊員たちに村に戻るように伝えてちょうだい。至急よ」

「はいっ!」

 大きく頷くと、アリネアと共に洞窟から急いで出ていく。

 シェリンダはそれを見て、考え込むように顔をしかめてから、自らも急いで村へと戻った。

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