山に潜む秘密
その頃、小さな小さな村を護衛拠点とするシェリンダ率いるチーム。ザヒヌ村には数十名の警戒人員を配備し、残りはこのザヒヌの裏手に当たる広大な山の洗い出しを行っていた。
「特に何もないのかしら…?」
洗い出しを開始してから大分時間がたっているが、隊員達から異変を知らせる連絡はない。シェリンダは思案してから、あと1時間洗っても見付からないようなら、必要人数を山に配備し、村の警護を強めようと決め、小さく頷いた。
だが、その時魔力の波長を感じ、振り返る。慌てなかったのは、その波長に覚えがあったからだ。
振り返れば、一部の空間が歪み渦を巻き始める。直径60p程の正円が出来ると、渦巻いた空間の色が解け合っていき、次第にそこにぽっかりと白い空間が生まれた。
『シェリンダ!』
「ギージットン、どうしたの?」
その空間の中心に現れた顔に、シェリンダは首を傾げながら尋ねる。
『不味いことになった。ピゼット隊長のところに吸血鬼が現れたらしい』
「隊長のところに?」
シェリンダはその言葉に眉を潜める。吸血鬼が現れたのは、作戦としてはありがたいことだし、ピゼットの元に現れたなら寧ろ好都合のはず。なのに、「不味いこと」とはいったい。
『吸血鬼の正体はどうやらドリミングの幹部だったらしい。テロリストの襲撃を受け、隊長は今一人で幹部二人を相手にしているようだ』
腑に落ちない表情をしていると、捲し立てるような早口でギージットンの声が続いた。
「幹部…? どういうことなの…!?」
驚きで目を見開き、空間の中に写し出されたギージットンへ迫る。ギージットンは渋い表情を作ると、少し視線を落とした。
『どうやらこの事件、ドリミングの罠だったらしいな…。俺も詳しいことは聞かされてないんだが、とにかく急いでベールーガへ向かってくれ!』
「……わかったわ。戦況は良くなさそうね…」
シェリンダは頷くと、直ぐに移動するために隊員たちに声を掛けようとする。
「シェリンダさんっ!」
だが、隊員に声を掛けられ、そちらへ顔を向けた。
「アリネア。どうしたの?」
「ご報告します。森の中腹付近の急な崖を下った場所に巨大な洞窟がありまして、その中に50名程の人を発見しました。皆意識はありませんが、一様に首筋に噛まれたような跡があり、恐らく今回の行方不明事件の被害者ではないかと……」
アリネアと呼ばれた女アンケルは、敬礼をすると、早口で用件を告げる。シェリンダと、まだ通信を切っていなかったギージットンは同時に眉を潜め、顔を見合わせた。
「ごめんなさい。指示をしたら直ぐに向かうわ」
『あぁ、頼んだ。俺たちは先に向かってる』
シェリンダの言葉に頷くと、ギージットンは通信を切った。すると、ギージットンの姿を映していた白い円は煙のように姿を消し、また元の景色が広がった。
「あの…シェリンダさん、何かあったのですか……?」
二人の間に流れるただならぬ空気を感じ、アリネアはおずおずと尋ねる。
「どうやら、吸血鬼の正体はドリミングの幹部だったらしく、この事件そのものが罠だったみたいね。ピゼット隊長の元に現れたみたいだから、これから私たちも至急ベールーガへ向かうわ。でもとりあえず、その洞窟に案内してちょうだい」
「は、はい」
その言葉を聞いて、アリネアは顔色を青くした。事態が良くないのは、きっと雰囲気で感じ取ったのだろう。シェリンダは険しい表情をすると、アリネアの後に続いて、洞窟を目指した。
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