迫り来る手と一筋の閃光
新たな召喚獣の登場で、場にまた少しの制止区間が現れた。じっと、3人は様子を伺い合うように息を潜めている。
そんな空気を打ち破るように、ドクロの召喚獣がカタカタと歯を打ち鳴らした。鎌から伸びる鎖が、合わせるようにカチャリと硬質な金属音を響かせる。
「デソルト。頼むよ」
ピゼットの静かな声に、肉のない口からハァァァッと、空気が掠れるような音が漏れた。同時に、何か黒い靄のような物が口から噴出される。
「なんか息臭そう。私、アイツの相手は嫌だな」
そんな様子を見て、リーフェアルトは眉を潜めた。その言葉に、今度はジュイが顔をしかめる。
「あんたね……。今あんたはお荷物でしかないのに良くそんなこと言ってられるわね。ウィクレッタ相手に、あんたじゃ戦力にならないわ」
突き放すような物言いに、リーフェアルトはジュイを睨み付けた。
「うっさい! もともとジュイが私のサポート仕切れないのがいけないんでしょー!?」
「ふざけんじゃないわよ! さっきも言ったけどね、その他人任せなスタイルがまず問題なのよ!! 少しは自らの責任を感じなさい!」
またピゼットの存在を無視して、二人はやんややんやと言い争いを始めてしまう。
「ホント仲良くないのね」
ははっと乾いた笑いを浮かべながら、ピゼットはその様子を面倒そうに見つめた。
その間に、ぐっと脇腹を押さえる。生暖かい血液が付着して、ちろりと傷口を見つめた。
致命傷にはならない傷だが、浅い訳ではない。気付かぬうちに、血で左足は真っ赤に染まっていた。現実を見つめてしまうと、途端にくらりと目眩に襲われる。
それを頭を振ることによって誤魔化すと、刀を構え直して二人へ視線を戻した。もう、自分の体力的にも余裕はない。敵のいざこざの解決を待ってあげられるほど、自分は紳士ではなかった。
すぅっと空気を吸い込んで、体に酸素を送り込む。それから、たっと、軽い足取りで地を蹴り飛ばした。
リンッと、鍔に取り付けられた鈴が澄んだ音を鳴らす。その音にジュイとリーフェアルトがハッとして目を向けると、既に先程の位置に小さなウィクレッタの姿はない。眼前に迫ったそのスピードは、衰えを知らぬようだ。額には脂汗が浮いているにも関わらず、瞳の力は一向に弱まらない。
ピゼットは、地に這わせるように手にした刀を、一筋の閃光を描くように振り上げる。ジュイとリーフェアルトはなんとかその太刀筋を躱すと、間を開けるために後ろに飛び退いた。
その時、背後からハァァァッと言う、空気が掠れた音がする。二人でそちらに目を向けると、いつの間にか背後にドクロの死神が居た。
手にした鎌を高く振り上げ、凪ぎ払うように振り切る。空を切る音と共に、鎖が唸りながら太刀筋を追うように引かれ、鞭のように迫った。
「やだっ!」
リーフェアルトはそれを身を屈めてなんとか躱すと、直ぐ様転がってその場から離れる事を試みる。ジュイは軌道を読みながら鎌の斬撃を躱し、また数歩飛び退きながら距離を取った。
だが、後から襲ってくる鎖は、鎌を軸にしているためにさらに長いリーチで迫ってくる。
「くっ!」
呪文を唱える暇もなく、ジュイは未加工の魔力の玉を素早く形成すると、それを扇子を振りながら鎖にぶつけた。
ガシャンと、鎖同士が擦れて金属音を響かせながら、弾かれて後方へ吹き飛ぶ。
だが、鎌の攻撃はこれで終わりではなかった。
鎌を振った軌道から黒い靄が溢れ、形を成していく。
<ヴァアア"アアァァ>
背筋がゾッとするような声が靄から漏れてきたかと思うと、そこからたくさんの人間の手がつき出してきた。
「なっ!」
「うわっ…!」
その靄から手だけではなく、どんどん体が形成されていく。その体は全身が火傷したように爛れ、包帯が乱雑に巻かれていた。瞳には生気はなく、白く濁っている。
涎とも血とも区別の付かない物を穴と言う穴から垂れ流したそれは、形の形成を終えると同時にジュイとリーフェアルトに向かって飛び掛かってきた。
「この…!」
「気持ち悪いっ!」
ジュイとリーフェアルトは、それを見て各々魔法の形成を始める。
「《押し流す力は他者を薙ぎ倒す》!!」
「《我、彼の者を拒絶する》!」
ジュイは呪文と共に扇子を横に振るい、そこから巨大な風圧を産み出した。それに弾かれ、爛れた体のそれは、後方に吹き飛び地面に転がる。
リーフェアルトに向かっていた者たちは、彼女が産み出した遮断の壁に次々に衝突し、激しいスパークを産んでいた。しかし、そのスパークにも怯まずに、おぞましい声を出しながら壁を壊そうともがき続ける。
「ひっ…!」
白く濁ったいくつもの瞳が、まっすぐ自分に向けられている。まるで餌を求めるゾンビだと、リーフェアルトは血の気が顔から引いていくのを感じながら数歩後ずさった。
「【ゾンビメーカー:デソルト】。もっとも、彼の特技はそれだけじゃないけどね」
ピゼットは怯んだ彼女たちを見ながら、小さな笑みを浮かべつつジュイの背後を取る。ジュイはハッとするも、彼の斬撃の方が回避速度を若干上回った。ジュイの背中に、縦の切り傷が刻まれ、彼女の顔は痛みに歪んだ。
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