震撼の歌
 血が勢いよくめぐっているのか、少しの頭痛を覚えた。はぁっと、息を吐き出して冷静さを取り戻す。それから、うまく身を捻ってジュイの扇子から生まれた気流の刃を躱した。

「避けてるだけじゃ話にならないわよ隊長さん!」

ジュイは楽しそうに笑いながら扇子を振る。それと共に風の刃が巻き起こり、ピゼットの体を切り刻もうと迫ってきた。

 ピゼットはそれには答えずに刃を躱す。どうしても躱せない刃は、刀に魔力を込めて断ち切ることで相殺した。

 油断していたわけではない。ネガか消されたのは彼女が本当に強いからだ。焦りを見せず、どんな状況でも上手く対応してくる。
 ドリミングの幹部。その名は伊達ではないなと認めざるを得なかった。

 だから、彼も加減なんかしない。取り敢えず伝えたいことは伝えられたのだ。ハルも取り敢えずだが解放はできた。あとは全力で戦って、仲間の到着を待つのみだ。

「《描かれた夢は生を受け自由を手にする》」

 呪文念唱と共に、新たな召喚獣が姿を表す。それは人魚の姿をしたもの。あの、セルマにねだられて作った召喚獣だった。

「セリアーデ! 頼んだよ!!」

 ピゼットの声を聞くと、セリアーデと呼ばれた人魚の召喚獣は大きく口を開く。そこから、信じられない高音域、それもマイナー音の声を発した。
 それは音程を変えてリズムを刻む歌。しかしその音域の為か、悲痛な悲鳴、はたまた奇声のように響き、耳に痛いほどの振動として飛び込んできた。

「み、耳、が…!!」

 その歌は決して心地の良いものではない。高音域の奇声のような声が、不安を煽るマイナー音のメロディーを奏でる。それは耐えがたいほどの音で、ジュイは思わず攻撃の手を止めて両手で耳を塞いだ。

 しかし、その音は少しも遮られることなく聴覚を刺激し、脳に届けられる。まるで大音量のマイクを使って耳元で叫ばれているようだ。あまりの音に、もう彼女は攻撃どころではなかった。こんな爆音の中では、例え効果はなくとも耳を塞ぐ手を外すことなど出来ない。

 少しでも音から遠ざかろうと、後ろへ踏み込んで距離を取る。だが、ピゼットはそれを許さないと言うように刀を構えると、距離を開けることなく突っ込んで来た。ジュイに迫ると、彼女の身体を刻もうと刀を振り上げる。

 その斬撃を、両手を塞がれている今扇子で防ぐことは出来ない。己の身1つで躱す事を試みた。両手を耳に当てながら、なんとか刀へ視線を合わせる。

 だがその瞬間、彼女の体に異変が現れた。視界がぐにゃりと歪み、バランスが崩れそうになる。目の前にいるピゼットの姿すらも掠れ、歪にひしゃげた。彼の振るう刀の姿も、上手く確認することが出来ない。これでは、刀の軌道など見えるはずもない。
 音に当てられたのか、頭痛と吐き気にまで襲われてくる。耳も痛く、こんな状態では集中して魔力を練り込むこともできず、魔法を発動して防ぐことも不可能。だが刀を振るう気配は感じても、肝心の尺度が一切わからないのでは躱しようがない。殺気を読みとく冷静さも今はなく、彼女の胸中は焦燥感に満ちていた。

 このままでは、完璧に躱しきることは不可能かもしれない。例えできたとしても、とても第2撃にまで備えられる状態ではない。
 躱す体勢は取りながらも、どこかしらに痛みを感じることを覚悟して、使い物にならない視界を目を瞑って塞いだ。

「《孤独は全てを隔離する》」

 その時だ。ピゼットとは違う聞きなれた声が響き渡った。それと同時に、勢いよく振られていた刀が、ジュイに当たる前に空中で何かに弾かれてしまう。これにはピゼットだけでなく、ジュイも驚いて目を見開いた。

「私の存在、忘れちゃやだな〜、隊長さん」

 2人同時に声のした方へ顔を向けると、そこには微笑みを浮かべるリーフェアルトの姿。ピゼットは、その姿を信じられないものでも見るような瞳で見つめてしまった

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