時が語る真実
 ウィクレッタと、彼が生み出した召喚獣が同時に動き出した。ジュイとリーフェアルトは身構え、少しでも距離を置くために後ろに踏み込む。

「ヒューリィ! リーフェレット! 頼んだよ!!」

 召喚獣に声を掛けると、ピゼットは真っ直ぐハルへ向かった。最善だと思える策は結局浮かばなかったが、解放出来るかもしれない方法は今の時間でなんとか浮かんだ。相手は禁忌魔法。人が使わないようにと殆どの文献は姿を消している。あまりにも情報が少ない対象物へは対策の立てようがない。だが、禁忌と言えども魔法であることは変わらない。ハルの体へ負担にはなるが、他に道がわからないのならば、試す価値はあった。

 その間、ドリミングの2人は邪魔でしかない。引き付け役として、自分の足とも言える召喚獣を向かわせた。

 ヒューリィと呼ばれたイルカのような召喚獣は、空中を泳ぐようにジュイへと向かう。移動する度に体に触れた大気中の水分が水へと変わり、水飛沫が上がってキラキラと輝いた。

 ジュイは自分に向かってきた召喚を打ち崩すため、後ろに跳躍すると扇子を広げる。

「《押し流す力は他者を薙ぎ倒す》!!」

 呪文と共に横に一線すれば、扇子から巻き起こった風が巨大な気流へと変わり、鎌鼬のように地や草花を切り付けながらヒューリィへと迫った。

 ヒューリィは体を青く発光させると、その場でくるりと身をよじり、尻尾を風に向かってたたき付けるように空を切る。すると、そこから巨大な水流が生まれ、風に襲い掛かるように噴射された。

 風と水がぶつかり合うと、勢いが殺され、相殺される。だが、気流により高く舞上げられた水飛沫が、まるで弾丸のように勢いよく降り注いだ。

「《我は風の使い人》!!」

 ジュイは空に向かって扇子を振る。文字通り弾丸の雨と化した水達を、風の勢いで弾き飛ばした。
 航路を変えられた飛沫達は、ジュイを避けるようにして地面に突き刺さる。急に襲撃された地面は、水の勢いに高く泥を跳ねさせた。

「んもうっ、危ないわね」

 ジュイは泥だらけになった周りの地面を見て顔をしかめる。こんなところで動き回ったら、間違いなく泥が跳ねて汚れてしまう。それだけは嫌だった。せっかく美しいのに、進んで汚れるなど絶対に嫌だ。

 しかし、敵は目の前に居る。ヒューリィは宙で円を描くと、水飛沫を飛ばしながら再度ジュイに迫って来ていた。

 その様子を見て、忌ま忌ましそうに眉を潜めてから呟く。

「仕方ないわ……。これも全てはアイル様のため…」

 言い聞かせるように頷くと、泥だらけの場所へ足を踏み入れた。

 ヒューリィはまた青く輝くと、地面に尻尾をたたき付ける。すると、まるでもとから大地は水だったかのように波立ち、巨大なウェーブとなってジュイへ襲い掛かってきた。

「そんなのが私に効くと思うの?」

 にやりと笑うと、扇子を構える。

「《三日月の涙は浄化を促す》」

 扇子を優雅な手つきで振るうと、そこから莫大な水が溢れてきた。轟音を響かせながら、相対する方面に流れる水は、激しい水しぶきを上げてぶつかり合う。しばし力をぶつけ合うも、弾かれるように四散し、水飛沫を散らしながら姿を消した。

 そこまでは計算通り。だが、次に迫った事態にジュイは目を見開く。

 今ぶつかり合った水はただのフェイク。その水の流れに乗り、さらにはジュイの生み出した水の流れに逆らって泳いできたヒューリィが、水が四散すると同時に目の前に迫っていたのだ。

「なんですって!?」

 その事態に驚き、慌てて後ろに飛びのく。だが、流れに逆らうため勢いよく泳いできたヒューリィは、その勢いのままジュイへ迫った。
 今度は青緑色に体を発光させると、宙で身を素早く回転させる。すると、鰭から伸びる透明な水のレースが勢いよく振り回された。
 慌てて手にした扇子でそれを防ぐも、レースが通ったヶ所が、鋭利な刃物にでも切られたかのように裂ける。まるで宙を泳ぐように移動するヒューリィは、くるくるとその場で回転しながら鰭から伸びるレースを振り回した。
 それはまるで水のカッター。空を切る音を立てながら振られるレースは、ピンと伸びきった状態で彼女へ迫る。防ぐのを諦めた彼女は、軌道を読んでその斬撃をかい潜った。

「凄いわね……。ホントにあのぼうやは人間なのかしら…?」

 その攻撃を躱しながら呟く。目の前の状況が信じられなかった。

 通常、この"ストーリーサモンズ"で生み出された召喚獣の行動は術者に決められる。意志を持たせて作り出す召喚獣と魔力構成の段階から違い、普通の召喚魔法とは部類が分けられていた。
 この"ストーリーサモンズ"の利点は、自らの想像力次第でいくらでも強い召喚獣を生み出せること。だが、欠点は召喚獣の意志のみでは行動できないことだ。

 召喚獣に意志を持たせることは出来るが、戦闘に置ける行動は術者ありき。召喚者が命令を下し、魔力を提供することで行動が出来る。
 だから、通常はこんな風に離れて戦うことはなく、術者の代わりに召喚獣が動くという戦闘法が取られる。術者と召喚獣は一体なのだ。

 だが、召喚獣を生み出すとき、予め戦闘パターンをインプットさせておく事も出来る。恐らく、この動きも戦闘パターンとして予めインプットされたもの。そうすれば、術者と離れても行動をすることが出来る。
 だが、その行動パターン以外は動くことは出来ず、機転や融通は効かない。おまけに、その行動パターンをインプットするのとて、イメージの織り成すものだ。召喚獣の姿や能力を想像しながら、さらには行動パターンまで想像する。ましてはそれを2体も生み出すなど、人間業とはとても思えない。

 しかも、この召喚獣は脳があるのではと思うほど行動パターンが多彩だった。これだけの情報量。戦闘に置ける数々のパターン。動きのモーション。それを埋め込むにはいったいどれだけのことを考えて魔法を作り出しているのか。想像するだけで目眩がしそうだ。

「頭がいいって次元じゃないわ……」

 苦々しい表情をしてから一部が裂けた扇子を広げる。正直、幹部2人とゲルゼールなら、この任務は楽勝だと思っていた。

 ジュイはくすりと笑うと、まっすぐヒューリィを見つめる。幼きころから、戦う道を強いられた子供達が今のウィクレッタには殆どだという。英才教育を施された、戦いのスペシャリスト。

(なるほど、ウィクレッタを嘗めちゃいけないってことね。面白いじゃない)

 この魔法の規格を逸脱した存在を見つめながら、迎え撃つために魔力をこめだした。

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