赤と青。そして
 少しでも、町から離して戦う必要がある。今は町民の避難に割いている人員はないし、そうなれば一般人に危険が及んでしまう。1人で突っ込むのは危険だが、この場合致し方ないだろう。程なくして、仲間がやってくるのもわかっているから、彼は大胆にも1人で打ち込んだのだ。

 奇襲を掛けようとしたテロリスト達は、逆に1人で乗り込んできた小柄な男に驚いて動きが遅れた。その隙に、素早く1人を切り倒すと、レオルットが口を大きく開き、長い舌を鞭のようにふるって10人ほどをなぎ倒す。

「ファ、ファンタズマのやつだ!!」

 後ろの方で、慌てた男の声が聞こえた。今更体勢を取ったって遅いよと小声で呟きながら、魔力を練り上げていく。

「《それは我が命により動きを捕らえる》」

 早口の呪文念唱で、魔法を構成する。すれば一気に地面が凍り出し、そこから氷の柱が勢いよく飛び出した。その場にいたテロリスト達は、それに飲み込まれて凍り付けになってしまう。叫びながら飛びかかってきた男は、レオルットが少し回転を加えた長い尻尾で叩き付けて遙か後方へ吹き飛ばした。

「《描かれた夢は生を受け自由を手にする》」

 なれたように呪文を唱えると、レオルットの背から飛び降りる。それと同時にレオルットはぱっと姿を消し、別の生物が場に姿を現した。

 それはまるでライオン。だが、大きさはゆうに2mを超えており、たてがみは燃えさかる炎で出来ていた。
 尾も炎が灯っており、四肢にも炎がまとわりついている。その獅子が、雄叫びを上げながら鳴いただけで、大抵の人間はすくみ上がった。

「レオ! 頼んだよ!!」

 地に降り立つと、生み出した召喚獣に背後を任せ、自分は真っ直ぐ人の群れに突き進んでいく。ひゅっと懐に飛び込むと、勢いよく腹を切り裂く。ドプリと飛び出す血液と、収まりきらなくなった腸が溢れるのを横目に見ながら、隣にいた人間を顎から斬り上げた。
 顔や性別を確認している暇はない。そのまま状況が良くわからぬまま、来た人間を切り裂いた。今、周りは全て敵だ。遠慮する必要もない。

 視界がだんだんと赤に染まってきた。生暖かい液体が顔にも体にも付着する。どこか遠くで、自分が刀を振る度に鈴の音が鳴り響いた。これは、彼にとっては大切な音である。
 鈴の音に耳を傾けながら、振り下ろされた斧を躱す。それと同時に、膝辺りで横へ刀を振り払った。あまり緻密では無いが、刀に魔力を纏わせて切れ味を良くしてある。骨すらも苦とせず裁ち切り、膝から切り離された上半身は悲鳴を上げながら地に頭から落ちた。

 その時、鈴の音のさらに遠くに、別の声を聞く。ハッとして声の方へ顔を向けると、遅れてきた隊員達がテロリスト達と真っ向からぶつかっているのが目に入った。その視線を更にずらすと、レオが炎を吐いて敵を焼き払っている。それを止めようと背後から襲いかかった敵は、後ろ足で蹴り飛ばしていた。

 少しほっとして、また目の前の敵へ目を向ける。勢いよく敵を切り裂いて、どんどん奥へと進んでいった。魔力によって血糊が付きづらくなった刀は、初めから切れ味を変えずにスパスパとこぎみ良く切り裂いていく。鈴の音が、真っ赤に染まりそうな視界をまた現実の色に引き戻してくれた。

 さすがに息が上がりながらも、一回転しながら敵を薙ぎ払う。はぁはぁと荒い呼吸が耳障りになってきて、頭の中でどくどくと血液が脈打つのを感じた。

 その時だ。ふと、赤く染まりつつある視界に、別の色が飛び込んだ。
 真逆の青が、ちらりと視界を横切る。はっとその色を追うと、美しい青緑が見えた。

 風に舞う髪。美しいその色と対象のように輝く、血と同じ赤の瞳。それがにっこり微笑みながらこちらを見ていて、まるで次元が違うようだった。

 それは直感に近いのだろうか。あの子は危険と、体中の警報が訴えかけていた。戦場に似合わない可憐な少女が、大きな瞳を細めながら血の惨劇を見つめている。

 気付いたら、目の前の敵を斬りつけ、少女に向かって走っていた。何かが訴えるのだ、あの少女は普通じゃない。だから、自分が行かねばならぬと。

 進行を阻めようとした敵は、レオが飛び込んできてなぎ倒していった。勝手に自分で意志を持って行動しているような召喚獣だが、実はピゼットが命令を下して動いている。さっきまでは目の前の敵を燃やし尽くせと、そして先ほど背後から襲われそうになったときも、ピゼットが命令したから攻撃できたのである。
 今は自分の行く道を邪魔する者達をなぎ倒すように命令している。巨大な足で踏みつけ道を空け、ピゼットは真っ直ぐ少女に向かって駆け出した。

 少女は華やかな笑みを浮かべると、少し人々の群れから離れた場所へと歩いていく。ピゼットとレオは、それを追ってやっと人の群れから離れた。

「待ってたよぉ〜隊長さん」

 少女はこちらを振り向くと、甘い声で呟きながら、嬉しそうにピゼットを見つめる。その途端、背後に威圧感を感じて、勢いよく振り返った。

 途端に、魔力がガクッと減るのを感じる。少し足がもつれて、バランスを崩して倒れそうになった。
 背後にいたレオが、いつの間にか消え去っている。魔力が減ったところを見れば、どうやら消し去られたらしい。

 いや、それよりも彼を驚かせたことがある。そこにいた人物だ。いつの間にか自分の後ろで、どうやらレオを消し去ったらしい人物の姿に体が硬直した。

「ま…!」

 頭が真っ白になって、思わず動きが止まった。いや、まさかこんなことになるなんて想像できなかったのだ。

 いつもは弱気な男が、無表情で自分を見つめる。気付いたときには自分に迫っていて、殺気を感じて慌てて横に踏み込んだ。

 だが一歩遅く、脇腹に痛みが走る。彼が持っていた槍。真っ直ぐ自分を串刺しにしようと繰り出されたその刃が脇腹に突き刺さった。
 いつもならしないミスだ。だが、こんかいはそれを繰り出してきた人物が異常だった。

「なんで…」

 その槍が引き抜かれると、目を見開きながら痛みの走る脇腹を押さえつつその人物を見つめる。

「なんでお前が…!! ハル!!!!」

 それはここにいるはずがなくて。それ以前に自分を傷つけるはずのない人物。その人が迷わず自分に攻撃を繰り出してきて、普段おどおどした表情は人形のように変化がない。

「えへへ。その子は私のお人形になったんだよ? 9番隊隊長のピゼットさん」

 少女は、その様子を見て楽しそうに微笑みながら2人を見つめた。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!