思案
「…と、言うわけで、これらの事件の犯人と思われる吸血鬼を確保するため、ご協力願います」
ところ変わって、ここはまた別の村。ザヒヌと言うのどかな農村で、シェリンダは老人を前に一息ついた。
「なるほど…あの不可思議な神隠し事件の真相がそうだとはのぅ…」
村長の老人は、じっと木造の床を睨みながら呟く。犯人の目撃証言はファリバールだけのものであり、町から信頼の得ていなかった彼の証言は、他の町や村には伝わらなかったようだ。吸血鬼吸血鬼と何度も呟く老人を見ながら、話に聞いた通りダメ町長ねと、心の中で会ったことのないグルジアンへ悪態をつく。
「もうこの1ヶ月で、この小さな村から8人も姿を消してるんじゃ。どうか頼む。その吸血鬼とやらを捕まえて、村人達を取り戻してくれ」
老人は顔を上げると、縋るようにシェリンダを見つめる。彼女は安心させるようにゆっくり頷くと、老人の皺くちゃの手を取った。
「ご安心ください。我等ファンタズマの名に誓って、お約束致します」
フルフルと震えた手から、この事件を本当に憂いたことがわかる。シェリンダの頷きを見て安心したのか、少し涙腺が緩んだ瞳で何度も頷いてきた。
村長の家を出ると、付き添いで着いてきたアンケルの男が駆け寄ってくる。
「許可が出たわ。アオ、手筈通り隊員を配備して頂戴」
「了解しました」
アオと呼ばれた男は頷くと、駆け足で村の外の隊員達の元へ向かっていく。シェリンダはそれを見届けてから、この村の直ぐ後ろにある山へ目を向けた。
ここは小さな村だ。今の隊員での警護では、正直人数があぶれる。あの山以外は平野が続いており、畑ばかりの周りは見渡しが良い。唯一の隠れ家になろう山は、一度隊員を配備して洗ってみる必要がある。
「さて、どこに出てくるかしらね、吸血鬼は…」
続々と指示を受けた隊員達が村に入って来る中、睨むように山を見ながら呟いた。正直、この小さな村にこれだけの人員が配備されたら、吸血鬼はこの村は狙わないであろうとは踏んでいる。確率からして、ピゼットとギージットンのところが一番高いであろう。
「シェリンダさん、配備調いました」
悶々と考えていると、アオがいつの間にか背後に居て、少しドキリとした。だが、平静を装って、振り返りつつ頷く。
「…わかったわ、標的に見付からないように、隠れつつ張ってちょうだい。山狩りの方は…」
「手筈通り、ヤマトが先導して行ってます」
「ありがとう。では貴方も配置に」
「はっ!」
敬礼しつつ頷くと、アオはまた駆け足で行ってしまった。
「……さて」
一段落が着いて少し落ち着いてから、ふっと一気に息を吐き出す。
「真っ向衝突に乗ってくるかしら?」
吸血鬼にしたら危険な場にわざわざ出て来ることもないであろう。長期戦になれば、隊の士気にも関わるし、村人達の不安も増幅してくるだろう。出来るだけ、早期に決着は付けたいところだ。
「気合い入れなきゃね」
情報は少ないが、その分少しでも怪しい人間は虱潰しに調べる必要がある。気合いを込めると、配備の確認をするために歩きだした。
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