イージフィル


 ガチャリとドアが開くと同時に、人々が溢れ出すように車から出てきた。その中でも目立つ巨漢が、ゆっくり降り立つと同時に目の前の町を見る。

「ギージットン副隊長、あそこがイージフィルです」

「あぁ。ありがとう」

 隣に駆け足気味でやってきたアンケルの男が、指を指して町の説明をする。ギージットンは頷くと、その町に向かって足を進めた。まずは町長に合い、事情を説明しなければならない。

「念のため、エルゴ、キミは私について来てくれ。ミラーシェ!! いるか!?」

 先ほどの男、エルゴに向けて言ってから、周りの人間を見回しつつ別の人物を呼ぶ。

「お呼びですか?」

 また駆け足気味で駆け寄ってきた男を見ると、彼の肩を軽く叩いた。

「私は今からエルゴを連れて町長に事情説明にいく。その間、ここは任せた。今から周囲に気を配るようにしておいてくれ」

「了解しました」

 バッと素早く敬礼をすると、声を張り上げて隊員達を統率していく。ここは彼に任せれば大丈夫だな。そう思い、ギージットンとエルゴはいち早く町へ足を踏み入れた。



 町の中は、オマラージュとは違い、活気があった。人々は行き交い、普段通りの生活が営まれている。

「もっとオマラージュのように怯えきっているのを想像してましたが…意外に元気ですね」

 同じような現象が起きているにもかかわらず、死んだような町だったオマラージュとは随分な違いだ。驚き半分でエルゴは笑顔さえ讃える人々の顔を見つめる。

「ここはこの1ヶ月で2人の行方不明者が出ているが、他の町に比べたらかなり少ない。町の規模が多いこともあり、危機感が低いんだろう」

 商店街に入ると、進行が少し困難になるほどの交通量だ。人々の波を掻き分けながら、まっすぐ町長がいる場所を目指した。




 ファンタズマの名を出せば、簡単に町長に謁見することが出来た。事情を軽く説明し、人々に不安を与えないように町の見回りをする許可が下りる。

「ファンタズマが動いてくださるなんて、これで安心ですわ」

 まだ40代であろう若い女性が、ホッとしたような笑みを携えながら胸元に手を添えた。美しいウェーブのかかったブロンドのロングヘアー。口許に黒子を携え、赤渕の眼鏡をかけたこの女性が、イージフィルの町長だ。切れ長の瞳に写る意志の強そうな輝き。若い女性が町の長を勤めるだけあり、オーラがひしひしと漂っていた。

 えんじのソファーに腰掛けながら、人辺りのいい笑みを浮かべたままギージットンをみやる。

「オマラージュの町長には困ったものだったけれど、たまには役に立つものね」

 紅茶を一口啜る彼女を見ながら、ギージットンは思わず苦笑いを浮かべた。近くの町だから、一緒に会議などを催すことでもあるのだろうか。とにかく、あの町長はやはり良い印象ではないらしい。

「信頼いただけて光栄です。必ずや、この事件を解決させますので、ご安心ください」

 苦笑いから、普通の笑みに戻すと、町長は安堵の笑みを口元に浮かべる。

「ファンタズマが成してきた数々の功績は耳にしていますから。どうぞよろしくお願いします」

 彼女は立ち上がり、すっとギージットンへ手を差し延べてくる。

「お任せください」

 しっかりその手を握り返すと、会釈をして部屋を出た。

「人辺りの良い女性でしたね〜。それに美人だ」

 エルゴは部屋を出た途端に、ドアを見つめながら感想を漏らす。

「そうだな。じゃ、しっかり期待に沿えられるように気合い入れて仕事頼むぞ」

 前の町長との会話とは偉い違いだなと内心呟きながら、まだボーッと扉を見つめるエルゴの襟首を掴んだ。

「わかってます。例え不細工だって仕事は真面目にやりますよ」

 にっと人懐っこい笑顔を浮かべると、くるりと一回転してギージットンの手から逃れる。たくっと、小さく微笑みながらギージットンはため息をつき、少し早足でミラーシェ達の待つ町の外を目指した。

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あきゅろす。
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