目的の推測
ふぁあっと、思わず欠伸が出てしまい、ニーナは慌てて口元を隠した。みんな車で移動してしまったが、この班はここオマラージュ担当であり、移動の必要が無い。すでに各メンバーを割り振って町内循環をさせていた為、少しだけだが気が抜けてしまった。
「はぁあ。何か嵌められた気分〜」
髪型を整えながらボソリと呟く。
「どうなさったんですか?」
隣にいたアンケルの女が、その呟きを聞いて首を傾げた。
「ん〜、ハルがこの班編成したんだけどさぁ〜? この担当地、一番ハズレな気がしてぇ〜」
少し頬を膨らましながら、ぽりぽりと指で頬をかく。アンケルの女はさらに不思議そうな顔をした。
「この町はさぁ、昨日から私たちがずっと張ってるわけでしょ? そんなところにわざわざ飛び込んで来ないと思うんだよね〜。私なら、この町は避けるな〜」
その言い分を聞いて、納得したように相槌を打った。
「そうですね。確かに、ここは一番に警備配置も着きますし、標的にしたら一番やりづらい場所ですよね」
何も一番やりづらい場所に来なくても、他の場所でも仕事は出来るだろう。ニーナの言う通り、この場所が一番確率が低そうだ。
だが気を抜く分けには行かない。一旦会話が終わると、周りを警戒しながら歩きだした。
だが、その時ふとした疑問が出て来て、一度町へ向けた視線をまたニーナへ戻す。
「いったい…吸血鬼はなぜ人をさらうのでしょうか…?」
「知らないわよぉ。吸血鬼さんご本人じゃなくちゃ、いくら考えたところで推測に過ぎないもの」
愚問と言うように眉を潜めると、気になるのか、髪を結ぶリボンを触る。
「まぁ仲間集め、若しくは駒集めってのが目的なのは間違いないんじゃない? その吸血鬼が使う禁術って、他人を自分の思い通りに動かせるらしいしぃ〜?」
リボンから順々に指を下げて、最終的に毛先を睨みながら話した。枝毛を見付けたらしく、表示を険しくしながら一本の毛を摘んで切り離す。
「駒集め…」
それを何となく眺めながら、噛み締めるように呟く。
「それか、もしかしたら人体実験とかでもしてんのかねぇ〜?」
切り離した毛を空中に投げ捨てると、ニヤリと笑いながらアンケルの女を見る。
「や、やめてください…!!」
想像したらぞっとしたのか、小さく身震いをしながら手を勢いよく横に振った。
「ま、目的なんて吸血鬼さんを取っ捕まえたら聞けば良いだけだよぉ。この他にも、考えられる理由なんて山ほどあるもん」
ニーナの言葉に、女は眉をしかめる。他に、いったいどんな理由があると言うのか。
「どういうことですか…?」
思ったことをそのまま口にすると、ニーナの目に影が落ちる。
「ん〜? 例えばこうして一つの班をばらばらにするように誘い出すテロリストの罠、とか?」
口元は笑っているが、目が笑っていない。ぞっとして思わず目を背けてしまった。
「まぁ考えすぎかもねぇ〜」
だが直ぐに元の表情に戻ると、ころころと笑い出す。
「どんなに目的を思案したところでぇ、今は吸血鬼を見付けるしか方法がないんだもん」
「そ、そうですね」
まだ少し恐怖で高鳴った心臓を何とか抑えようとしながら、また町へ視線を戻した。
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