情報
暗かった空はもう日が昇っている。朝を迎えた9番隊は、慌ただしく動き回っていた。
声を張り上げる人々と、その声に反応して動く人々。今、9番隊は班編制の発表を行っていたのだ。
「よーし、みんな揃った!?」
ピゼットは手をメガホンのようにして口元に当てながら、目の前に集まった自分のチームになる隊員へ声を掛ける。人数が多いから、誰かが漏れていてもこちらとしては気づけない。返事をする隊員達を信じて、これからのことについて話し始めた。
「じゃぁ今から俺たちはここから南西に位置する町、ベールーガへ向かうよぉ。ここが恐らく確率的には標的と遭遇する可能性が高いから、気を引き締めてよろしくね」
にっと笑いながら言うと、バッと同時に目の前に並ぶ隊員達が敬礼をする。隊員達には、既に今度の標的の情報は伝えてある。
禁術を使う魔法使い。
黒いローブを頭からかぶった、赤い瞳。
取りあえず、今回の標的のことを吸血鬼と呼ぶことにすること。
「さて、それじゃ移動だ。みんな集中よろしくね」
再度目の前が一斉に敬礼をする。それから、割り振られた車に順々に乗り込みだした。
普段は階級ごとに別れて乗る車だが、今回は全ての階級が入り交じって乗ることになる。ピゼットが乗り込む車の隊員達は、どこか緊張の色が走っていた。
車内はシーンとして、重苦しい空気が流れている。発車しても、口を開く人は誰もいなかった。
あちゃ。こりゃ気疲れしちゃうな…。
それを見て、困ったように苦笑いをしてから口を開く。
「みんなぁ〜。俺ってばこんな沈黙耐えられないよ〜。好きに話して良いよ〜。集中と入ったけど、ほどよいリラックスも必要だから」
すると、隊員達にすこしほっとした空気が流れた。やはり、張り詰めた空気に参りかけていたのだろう。
「あ、あの。それでは、ピゼット隊長…」
1人の男が、遠慮がちにピゼットを見る。
「ん? どったの?」
首を傾げながら尋ねると、1回唾を飲み込んでから、男は少し怯えたような目をして口を開いた。
「禁術のこと、もう少し詳しく教えていただけますか…?」
その質問が出た途端、他の隊員達も一瞬にしてまじめな瞳の色をピゼットと男に向けてきた。
「あんらま。みんな熱心だねぇ」
その視線に、なんとまじめなことかと思いながらも、良いことだなとほくそ笑んだ。確かに、自分たちが吸血鬼と遭遇する確率が一番高いと言われたら、少しでも道の情報を得ておきたいのだろう。
こういう戦場においても、情報という物は戦いの結果を左右することがある。敵の癖や得意なことを知っておけば、それに対する対処が取れるからだ。一応既に簡単なことは周知済みだが、それだけでは不安なのだろう。
「おっけ。わからないことがあったら、その都度質問して」
にっと笑うと、対照的に隊員達の顔に緊張が走る。自分の知っている知識をどこまでわかりやすく伝えられるだろうかと考えながら、頭のなかで簡単な説明の道筋を立てて話し出した。
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