派遣先
「ちょ、ちょっと…いいですか…?」

 ハルは紙束をピゼットから受け取ると、パラパラとめくり出す。

「これ、見ていただけますか…?」

 大量の中から1枚取り出すと、テーブルをスライドさせながらピゼットの前に出した。

「どれどれ?」

 突きつけられたそれをのぞき込んで、ハルが言わんとしていることを探してみる。

「ここです。周辺の、町が襲われている統計、ですね」

 1つの図を指さすと、ピゼットへゆっくり目を向けた。

「あ〜、なる」

 ハルが言いたいことを理解し、小さく数回頷く。

「はい。同じ町は連続して襲っていません。必ず、間をおいて人が行方不明になって、ます」

 図を見れば一目瞭然だ。吸血鬼魔法使いは連続して同じ町の人間をさらわない。必ず襲ったら暫く間をおいて別の場所を襲い、恐らく少しずつ人々から恐怖心が消えた頃またその町から人をさらうのだ。

「この前襲われたのはこのペルという町で、その前はボルーノと言う村ですので、おそらく、ですけど……ここに出現する確率は低…いと思います。なので、ここにアンケルをリーダーとした班を設置しようと、思うのですが…」

 だんだん説明の声が小さくなってくる。最初資料に落としていた瞳は、こちらの様子をうかがうようにちろちろとピゼットへ向けてきた。瞳の中には、不安の色が色濃く映っている。

「うん、そだね。そうしよっか」

 そんなハルへにっと笑みを向けると、ほっとしたような表情へ変化して、少し頬に赤みが差したのがわかった。


「なるほどなるほど。じゃ、確率が一番高いところは?」

 ハルの頭の中でも、確率が恐らく一番高いところに自分を配置するつもりなのだろう。資料をのぞき込みながらも、既に考えてくれているハルへ意見を求める。

「多分…この町だと…思います」

 遠慮がちに指を伸ばしたのは、ベールーガと言う町だ。確かに、ここ6回分襲われていない。次来る確率は高そうだ。

「おっけ。じゃぁ俺ここ行けばいいのね」

「お願い、します」

 やはりピゼットをそこへ派遣するつもりだったらしい。禁術を使う人間を相手に出来るのは、恐らく知識が一番あり、また腕が一番立つウィクレッタを派遣すべきだと自分でも思う。ウィクレッタを危険から守るのがゲルゼールの役割ではあるが、この場合一番来そうな場所にゲルゼールを当てるよりは直ぐにたたけた方が良い。周辺の町と行っても、それなりに距離はあるのだ。

「じゃ、他は?」

「あとは、確率が高い順に、実力順で当てていこうかと…。次に高いこの町にはギージットンさんで、ここはシェリンダさん。ここがニーナさんで、僕はこのアルバナへ行き、ます」

 指を動かしながら、わかりやすいように説明をしていく。ピゼットは頷きながら聞くと、最後に一番大きく頷いた。

「わかった。それでいこっか。じゃぁゲルゼールメンバーとアンケル二人にそのことを伝えて、メンバー表を渡してきて」

「は、はい」

 頷くと、ピゼットの班メンバーが書かれた資料以外をまた抱え込んで、1回頭をさげる。それから急いで伝えに行くのだろう、小走りでテントから出て行った。

「ふぅ…」

 ピゼットはそれを見送ってから、どかりと布団へ座り込む。手にした自分の班員名簿へ目を通しながら、いろいろと思惑を巡らせていた。

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あきゅろす。
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