ホームドラマ
「と、言うわけで。コレが今回の事件の真相。禁忌魔法を使う魔法使いが、何らかの理由で支配下の人間を集めてるってことだねん」

 ぽかぽかというのがぴったりな陽気の中、1人のウィクレッタと4人のゲルゼールは椅子に腰掛けて話し合っていた。背後では、隊員達がせっせとテントの準備をしている。自分たちのテントは隊員達に任せて、5人は少し離れた場所で悠々と座っていた。ちゃんと今後の為の話し合いをしているのだが、端から見たら部下に働かせて自分たちは休んでいる最悪上司の図である。

「禁術〜!? 隊長って物知りだよね〜」

 ニーナはテーブルに肘を乗せ、顎を支えながらピゼットをニコニコと見る。

「えぇ。俺も驚きましたよ。毎度の趣味ですか?」

 ギージットンも同感というように頷きながら、1人立ち上がっているピゼットを見た。

「ん。まーね」

 誉められて嬉しいのか、にっと口元に弧を描きながら、目を細めた。彼の趣味の一つ。知識の吸収。誰かと馬鹿騒ぎをするのも好きだが、1人で黙々と知識を蓄えるために本を読むのも大好きである。年の割に知識は豊富で、さらにかなりマイナーな知識まで持っている。

「役だったでしょ。まぁそれは置いといて」

 笑みを携えたまま、置いておいて、というジェスチャーをする。

「今回はこの吸血鬼と接触してどうこうしなきゃいけないわけ」

 そのまま両手を腰に当てると、ゲルゼールの4人を順繰り見つめた。

「ということは、吸血鬼を探すところから始めなければいけないのですね?」

 シェリンダは神妙な面持ちをする。ニーナはその言葉に、面倒というように顔を顰めた。
 ピゼットはそんなニーナを気にしない方向でゆっくりと頷く。

「これから部隊をいくつかに別けて、吸血鬼の捜索を開始する。ギージットン」

「はい」

 ピゼットの視線に頷くと、ギージットンは数枚の資料を取り出した。他の3人は一体どこから取り出したのだと疑問に思いながらギージットンと資料を交互に見つめたが、口に出しては誰もいわない。

「……資料によりますと、この町周辺の7つの村や町で誘拐事件が起きています。部隊は7つに別けるのが良いでしょう」

 それをしばらく眺めてから、ゆっくり顔を上げてピゼットを見る。ピゼットはうん、と頷くと、ゆっくり自分の椅子へ腰を掛けた。

「部隊を7つに別け、明日吸血鬼の捜索に当たる。わかっていることは、黒いローブを着ていて、赤い目をしているってことだけだから、捜査は難航しそうだけどね…」

 渋い表情をすると、これまでずっと黙っていたハルへ視線を、向けた。

「ハル。部隊別け頼める? 俺たちが1人ずつトップに立つとして5組。あと2組をアンケルから選んで、バランス良く」

「は、はい。わかりました」

 ハルは頷くと、がたりと席を立ち上がる。

「で、では、僕は処理に行かせて頂きます」

「うんお願い。編成が出来たら見せて」

「わかりました」

 ハルは少し晴れた表情をすると、車に向かって歩いていってしまった。車の中に、隊員名簿などの資料が入っているから、それを見に行ったのだろう。

「ハル嬉しそ〜。情報処理なら、私達の中で一番だもんね」

 ニーナは、やっとオーラが明るくなったハルを見てにっと歯を見せて微笑む。年下の自分にすら腰の低い頼れない男だが、どこかほっとけない。

「そうだな。ハルも、情報処理なら自信が持てるみたいだし」

 ギージットンも、まるで父親のような眼差しを向けながら頷いた。

「なんだか、和やかだね〜」

 それを見てピゼットも微笑む。このゲルゼール達、まるで家族のようだ。暖かな父親ギージットンと、冷静な母親シェリンダ。頼りない兄ハルと、しっかりした妹ニーナ。ホームドラマでも見ているようで、クスクスと笑い声を零した。

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あきゅろす。
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