イカレファリバール
例えばそれは捕食の瞬間に起きた。
蜘蛛が捕らえた蝶へ忍び寄る時。烏が飛び立つ雀に爪を食い込ませた時。
誰にもわからない。だがそれは確実に響き渡っている。助けを求める、断末魔の叫び。
この時、悲鳴を消したくて叫んだ。恐ろしくて更に泣いた。それは、人々にとっては突然発狂する、精神不安定な少年に見えただろう。
そして、人々は次第に離れて行った。そして少年はこう呼ばれるようになっていった。
イカレファリバール
ふと昔のことを思い出して自傷気味に笑った。
目の前の傭兵達は、何とも言えない表情をしている。大男の方は困惑しているのがありありとわかるが、幼く見える隊長の方がよく読めない。人と距離を置いたせいか、人の内面を見るのが得意になってしまったが、こんなに読みにくい人間は初めてだ。
「動植物の声…」
その隊長は、読めない表情をしたまま小さく呟いた。
「どんな…気分ですか?」
だが、次第に表情が晴れてくる。え? っと聞き返すと、いきなり目の色が変わった。その途端、空間がぶれる。いや、何か厚いベールがいきなり降りてきたかのような、不思議な感覚だ。
「《描かれた夢は生を受け自由を手にする》」
聞いたことのないような、ブレた声が部屋に響く。急に空気が彼に集まるように動き出して、集結していった。
次第にそれは形を成すと、ポンッと音がする。ドキッとして目を見開くと、彼の膝の上に見たこともない生物がちょこんと座っていた。
それは顔が黄色くて、丸い。雪だるまのように丸を2つ重ねた体。黄色い顔にはかわいらしい丸い瞳があり、頭には大きな葉っぱが生えている。緑色の丸い体からは蔓のような手足が生えており、首には花のようなピンクの飾りが巻き付いている。
「コイツが何言ってるかわかる!?」
キラキラとした瞳で、その不思議な動物を持ち上げると、突き付けてくる。<モキュ>っと鳴くそれを見て、シェリが何だかわからないと言う表情をしながらも、可愛いと目を輝かせていた。
「これは…?」
あまりにも突然な登場に、思わず言葉を失う。
「あ、ゴメンなさい。ほらリーフェッレト、ご挨拶」
ポカンとした表情のファリバールに、ピゼットは慌てながらその召喚獣をテーブルに乗せる。蔓のように安定しなさそうな足なのに、しっかりとつま先で立ってファリバールへ目を向けた。
<ムキュモキャ〜>
高い可愛い声で鳴くと、ぺこりと頭を下げた。
「可愛い…」
思わずシェリが頬を染めながら見とれている。ファリバールは金色の瞳でそれを見ていた。
「……召喚獣…これが…」
驚いたように目を見開いて顔を近付けると、頭から足先まで何度も観察した。
「何て言ったの…?」
シェリは興味津々と言うようにファリバールを見る。
「リーフェッレト。草を司る、マスターピゼットに生み出された召喚獣です。って」
「正解! 凄い凄い!!」
紹介された通りに話すと、ピゼットは嬉しそうに両手を叩く。なんだこの人、不思議に思いながら、ファリバールは目をしばたいた。
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