入れ替わる空気
現れたファリバールは軽く頭を下げると、トコトコとシェリの元へと歩いて行く。
「俺にもお茶」
「はいはい」
ファリバールに頷くと、いかにも仕方がないというように腰に手を当て、ため息混じりに頷いた。
「はじめまして。挨拶が遅れました。ファンタズマから参りました、7番隊部隊長のピゼット・オルズレンです。こちらは副部隊長のギージットン・クルーバー。以後お見知り置きを」
ペコリと頭を下げてから、一瞬崩されたペースを取り戻しつつ挨拶をする。
「へぇ〜…貴方が部隊長さんですか。大きな組織と聞いていたので、もっと鬼のように人がなるのかと思ってましたよ」
にこりと微笑みながら、彼はピゼットの前の椅子に腰を下ろした。
「意外にファンタズマの頂点にはそんな人いませんよ。見ればみんな一般人と同じです」
またかと思いながら、心を隠すように微笑む。だがファリバールはその笑みを見て一瞬自身の笑みを消してから、困ったように微笑んだ。
「あ、すみません。気を悪くしました? 別に疑ったりだとか、馬鹿にしてるとか、そんなんじゃないんですよ? ただイメージと違ったなって思っただけで…」
苦笑いの彼に、今度はこっちが目を見開いて笑みを消してしまった。思わずギージットンの顔をちらりと見つめてみるが、彼も驚いたような表情をしている。
まさか百戦練磨の愛想笑いが初めて会った人に見抜かれるとは。今ではピゼットが苦笑いを浮かべていた。
「すみません…そんなつもりは…」
「いえ。今のは俺が悪かったです。見掛けで人を判断するのはいけないと知っているはずだったのにね」
少し空気が柔らかくなったのを感じたのか、苦笑いから普通の笑顔に戻してまっすぐにピゼットの瞳を見つめた。
確かに、イメージと言うのは人に勝手な先入観を植え付ける。現に自分達もファリバールが美声年だったことに驚いて言葉を失ってしまったのだ。自分の風貌で一瞬驚くのも無理はないだろう。
ちょっと恥ずかしくなりながらピゼットは紅茶を一口含んだ。
「さて、挨拶も終わったし」
少し落ち着いたのを見計らって、ファリバールはテーブルに肘をつくと掌に顔を乗せ、じっと金色の瞳を向けてきた。
「俺に話を聞きに来たって本当? 冷やかしとかはやめてね?」
紅茶を運んできたシェリの手が、皿を置く寸前でピタリと止まる。彼女もびくびくとした視線を向けてきたので、ゆっくりと首を横に振った。
「それはありません。どちらかというと、町長の話が余りにも情報不足でしたので、目撃者と言う貴方の情報に頼ってきたのです」
思わず口を突いて出た悪口。それを聞いて2人はぶっと吹き出した。
「ピゼット隊長っ!!」
「…ゴメン、口が滑った…」
あまりの失言にギージットンは慌ててピゼットを見つめる。やってしまったというようにピゼットは口を引き結ぶと、もそもそと小さい開閉で謝罪を入れた。
「いやいや、うん。今のでちょっと、安心した」
ファリバールはついに堪え切れなくなったのか、笑い出し切れ切れに口にしながら何度も頷く。シェリも口元に手を宛がい、クスクスと笑いながらファリバールの隣に腰を降ろした。
「さて、話すよ。何処から聞きたい?」
笑いがやっと治まってから、金色の瞳をこちらに向けて悪戯っぽく微笑む。まじまじと見ると、本当に整った顔だ。そこまで女性らしくもないが、部類で言うとタピスに良く似ていると思う。
「はじめから。順を追って話していただけますか?」
犯人捜索はどれだけ情報が得られるかが肝心。真面目な視線を投げ掛けると、相変わらずの表情のままゆっくりコクンと頷いた。
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