驚きの風貌
 中もかわいらしい内装だ。木の形をそのまま生かしたテーブルに、それに良く合う椅子が4脚。
 入口からダイニングキッチンに直接繋がっており、薄いピンク色のタイルが貼られたカウンターの先にキッチンがあった。

 よく整った、やはり童話に出て来そうなかわいらしい家。ここにファリバールが住んでいる事は確からしい。だが、今度はこの女性らしい家と男性と言うものが結び付きづらかった。少なくとも、男性が一人で住む家には見えない。

「座ってて。今お茶入れるから」

 じっと考え込みながら家を見渡していると、シェリが水場に向いながらテーブルを指差す。お礼を言って座り込んでから、ギージットンと顔を見合わせた。

「ここにファリバールが一人で住んでるなんて考えにくいよね…。もしかしたら2人は同棲…とか?」

「ピゼット隊長…無駄に頭働かせるのはやめてください…」

 ポットでお湯を沸かしだしたシェリの後ろ姿を見ながら小声で話し掛ける。少し膨らんだ妄想にため息をつきながら、適当にあしらった。

「にしても、あの人の話を聴きに来てくれたなんて嬉しいわ。誰も相手にしてくれないんだもの」

 そんなことを聞かれてるとも知らず、ティーポットに茶葉を入れながらシェリは口を開く。ピゼットとギージットンは一度顔を見合わせてから、またシェリの背中に顔を向けた。

「あの、失礼ですがファリバールさんはなぜイカレてるなどと…?」

 ピゼットが尋ねると、シェリの手がピタリと止まる。

「それは…」

 体を固めたまま小さく呟いた。犬が彼女のそばに駆け寄って、切な気に鳴きながらロングスカートに顔をこすりつける。

「あの人……人以外のを聞いちゃうから…」

 小さくて聞き取りづらかったが、なんとかこれだけ口にする。人以外のを聞く。どういう意味かと問い詰めてみたかったが、彼女の様子では無理そうだ。ピゼットは空気が悪くなる前に早々に話を切り替えることにした。

「そうですか…。では、あなたはファリバールさんの理解者、というわけですね?」

「やだ、違うわ。そんな大袈裟なものじゃないの」

 尋ねると、やっと彼女は体を動かしながら質問に答えた。

「あの人、私がいないと何もしないのよ。小さい頃から一緒にいる兄弟みたいな関係だからほっとけなくて。だからお世話してあげてるの」

 湯が沸いたのか、ポットから白い湯気が立ち込めながらシュッシュッと音が鳴り出す。彼女は火を止めると、ティーポットにお湯を注ぎはじめた。

「もうほとんどこの部屋にいるもんだから、こんな部屋に改造しちゃった。あの人、自分の寝室意外に興味がないみたいだから、何しても怒られないの」

 女の子の家って感じでしょ? と後ろを振り返りながら微笑んだ。ああなるほどなと、このアンティーク調の部屋に納得する。

「さ、私がブレンドした紅茶なの。どうぞ」

 ティーカップに少し赤が強い紅茶が注ぎ込まれると、彼女はゆっくりと2人の前にカップを置いた。甘い香りが鼻孔を突いて、思わず目を閉じて香りを楽しむ。

「お砂糖は好きに入れて。ミルク、レモン、どれがいい? オススメはミルクだけど」

 陶器の容器に入れられた砂糖をテーブルに起きながら、2人の顔を交互に覗き込んだ。

「じゃぁミルクで〜」

 とりあえずストレートで一口、とカップを持ち上げながら笑顔でピゼットは答える。彼女は笑顔で頷き返してから、またキッチンにミルクを取りに戻った。

 さて一口味わおうとカップに口を付ける。そうすれば、程よい甘さとスッキリした味が咥内に広がった。確かに、ミルクとの相性が良さそうだ。

「わっ! おいし…」

「うん、ホントおいしいですね」

 想像以上の物にピゼットは驚いたように目を見開く。ギージットンも同感だったようで大きく頷いた。

「ホント!? 嬉しい!」

 ミルクを持ってやって来た彼女は歯を見せながら頬を染めて微笑む。その時、ドアが急に開いた。

「ただいま〜」

 ドアの開閉とともに男の声がする。反射的に2人はそちらへ顔を向けた。

 少し振り乱れた深緑の髪。特徴的な金色の瞳。若草色の繋は、絵の具のような染料でありとあらゆる色に染め上げられている。片手にはスケッチブックを持っており、ショルダーバッグからは大小の筆が飛び出していた。

「あ、お帰り。今ファンタズマの人が貴方に吸血鬼の話を聞きたいって」

 シェリは少し前屈みになっていた姿勢を元に戻すとピゼット達を紹介する。男は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐ細めて薄く笑みを作った。

「客なんて珍しい。俺がファリバールです」

 2人は挨拶されたにもかかわらず少し会釈をしただけで声が出せなくなる。イカレたと称されるファリバールを名乗った男。その容姿は非常に美しく、思わず言葉を失ってしまった。

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あきゅろす。
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