シェリ
「やだ、ごめんなさい…! レコット、その人は違うわ」

 命令をすると、先程までじっと自分を見据えたまま動かなかった犬がおとなしくどく。やっと解放され、胸に手を当て安堵のため息をつきながら上体を起こした。

「大丈夫ですか?」

「なんとかねん」

 ギージットンに助け起こされ、尻や背中についた土埃をパンパンと払う。

「ごめんなさい。最近町の人が嫌がらせに来るから、ついそれかと思ってしまって…」

 ライフルを置くと、駆け寄ってきた犬の頭を撫でながら眉を下げた。

「いえ、こちらも突然お邪魔してしまいましたから…。ところで、失礼ですが嫌がらせとは?」

 ピゼットの背中を綺麗にするのを手伝いながら、ふと首を傾げる。

「前から頭がイカレてるって言ってほぼ村八分状態なの。吸血鬼の目撃発言でさらに激化しててね」

 両手を腰に添えて、呆れたようにため息をついた。それからすっと小屋の窓を指差す。

「さっきも生卵ぶつけられて、掃除したばっかなのよ。仕事休んでまで集団引きこもりしてるわりにはこう言うことにはマメなのよね」

 頬を膨らませてぷんぷんと怒る。今度は腕を組んでおり、表情と体がくるくると動くなとピゼットは思った。

 犬がどいてやっとピゼットは女性の顔をまじまじと見つめた。
 鼻の頭にはそばかすがあり、少し目は小さめ。決して美人ではないが、意志の強そうな瞳が印象的だ。纏うオーラも快活とした物で、どちらかというと人気者になりそうな雰囲気を纏っている。どうして町の人間から「イカレた」など言われるのか。評価と実際の人物像が結び付かない。いや、そういえば町長の話では男との事だった。ならばこの女性は誰なのだろう。

「貴方が……ファリバールさん、ですか?」

 違うということを前提に尋ねた。観察するように目を細めると、女性はポカンとしたように口を半開きにして固まってしまう。だがすぐにあぁと呟きながら、首を左右に振った。

「違うわ、私はシェリ。ファリバールとは幼なじみなの」

 シェリと名乗った女性はクスクスと笑いながら自分の胸元を指して言う。

「吸血鬼の話、聴きに来たんでしょ? 今あの人出掛けちゃってるのよ。中で待っててちょうだい」

 身を引いて家に招き入れるように戸に手をかけた。開いた扉から犬が先に中へと入って行く。

「すみません。お邪魔します」

 ピゼットはお礼を言ってから犬に続くように部屋に入った。ギージットンも続いて、自分の身長より低い扉を屈み込んでくぐる。全員入るとシェリは扉を閉めた。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!