扉の先
駆け寄った先は、やはりこじんまりとしたかわいらしい小屋だった。扉の高さはギージットンの背に追いついていない。
自分の鼻の高さまでしかない扉を見て苦笑いするギージットンを見て、ピゼットは歯を見せて微笑んだ。
「まぁ挨拶しましょっか」
扉に向かい合うと、木で出来たそれに己の拳を軽く叩き付ける。コンコンという軽快な音が響き、この小屋の住人が出て来るのを待った。
だが、小屋のかで物音がしない。留守なのかと二人で顔を見合わせたときだった。
急に目の前の扉が解放されたと同時に、何か茶色いものがバッと飛び出してきた。
「どぅわっふ!」
「ピゼット隊長っ!」
飛び出してきたモノは、ピゼットの顔に体当たりをかます。急な襲撃に避けることも出来ず、勢いのままに後ろに倒れ込んだ。
「動かないで! ほっといてちょうだい!」
したたかに背中を打ち付けて、声に成り切らない痛みをどうにかしようと口をぱくぱくと開閉させる中、小屋の中から声が聞こえる。視界の端に映るギージットンは両手を上げており、困惑した表情を浮かべていた。
情けなく倒れ込んだ自分の上には、大きなゴールデンレトリバーがいる。臭い息を吐きかけながら、つぶらな両の瞳が自分の姿を捕らえていた。
この時、飛び出してきたこの犬に押し倒されたのだと気づく。あぁだから顔にぶつかった時もふもふしたのかと、妙に納得した。
巨大な体が綺麗に自分に覆いかぶさっている。だらし無く地に延ばした手の上には、逃がしはしないと言うように前足が乗せられていた。
「ちょっ、待ってください!! 何か誤解されて…」
両手を上げたままギージットンが慌てた様子で声を掛ける。彼の目の前には、ベージュの長い髪を2つの三編みにした女性が立っていた。その手にはライフルが握られ、銃口は見事に心臓に向いている。
「あら…見ない顔ね。町の人じゃ、ないみたいね」
眉を潜めたその女性は、両手を上げるギージットンと犬の下敷きになったピゼットを交互に見つめた。
「はい。この度の大量失踪事件の捜査のためファンタズマから参った者です。今回はお話を伺いたく…」
ギージットンは頷くと、平静を取り戻しながら手を下げて女性にペコリとお辞儀をする。
「あ、そうだったんですか。私ったら、ごめんなさい」
銃口を上に向けると、女性は恥ずかしそうに頬を染めた。やっと緊張感から解放され、「いいえ」と、そんな女性を怖がらせないように微笑みかける。
「話が纏まったところで…このわんこ…どくように言って…」
張り詰めた空気が和らいだところを見計らって、ピゼットは呻くように助けを求めた。
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