森の中のメルヘン
 言われたとおり工場に向かって歩くと、森に繋がる道を発見した。
 道なりにと言われた言葉を思い出し、2人はその道をずんずんと進んでいく。暫くすると道は森の中へと続いており、木々に囲まれた世界に飛び込むこととなった。

 人の手がきちんと加えられているのだろう。整った森は辺りに木漏れ日が落ち、静かに時が流れている。森林浴をするには、この森はもってこいだろう。美しい緑の木々が立ち並び、小鳥のさえずりが辺りに木霊していた。

「なんか不謹慎にもリラックスしちゃう場所だねぇ〜」

 少し瞳をとろんとさせたピゼットは、大きくのびをしてから呟く。

「そうですね。任務でなければ、ピクニックでもしたい気分です」

 賛同の意を表しながらギージットンも頷く。日の光を遮る木陰は心地よく、木漏れ日は美しく森の中を演出していた。
 2人は暫く目的も忘れて道をゆっくりと進んでいく。森の時間がゆっくり経過しているせいか、この中で急ぐのは場違いだ。そう思わせる雰囲気を帯びた森の空気に飲まれ、のんびりとした歩調を保ちながら辺りを見回していた。

 そんな中、ギージットンがあることに気付いてはたと足を止める。

「どしたの?」

 ピゼットは振り返りながら彼の顔を見つめた。

「あの家でしょうか…?」

 口を動かしながら、彼は正面を指さす。

「え?」

 くるりと振り返って彼の指の先を視線で追ったが、木々に隠れてうまく見えない。身長が低いから、彼には見えて自分には見えないのだろうか? ちょっと不服になりながら、少し歩調を早めて道を歩き出した。

 ちょうどカーブがかった道を歩くと、木々の影がずれて背後が見えてくる。そこには、木造の小さな小屋があった。屋根は赤い木の皮が張られており、煉瓦で作られた煙突まで付いている。どこかの童話に出てきそうな、メルヘン漂う小さな小屋。戸をノックすれば、小人が迎えてくれるのではないか。そんな考えが頭をよぎりそう。

「あそこが…ファリバールさんの家、かなぁ…?」

「…おそらく。この道はあの小屋の入り口に続いているようですし…」

 あの町長の話を鵜呑みにしていたわけではないが、「イカレた」と言われたイメージからはほど遠い。少し意外で2人で思わず顔を見合わせてしまうが、他に建物らしき物はギージットンでも見つけることは出来ない。道なりに行けばあると言われたことからも、あの小屋でまず間違いないだろう。

「ま、間違ってたら間違ってたであの家の人に場所教えてもらえばいっか」

 悩んでも仕方ない。イメージとは違ったが、想像通りに行かないのが現実という物だ。
 ピゼットの提案に頷くと、今度は目的が前にあるために森の雰囲気に飲まれず、それなりの歩調で2人で小屋を目指した。

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