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 角砂糖を5つも落とした紅茶に口を付けてから、グルジアンは真剣な眼差しを2人に向ける。

「ここ数ヶ月で行方不明者が続出している話はご存知ですね?」

「はい。このオマラージュを中心とした都市でこの1ヶ月で50人も失踪しているとか」

 ピゼットは頷きながら詳細を話すと、暗い面持ちでゆっくりと頷いた。
 相当な甘党なのか、もう一つ角砂糖を落とすと、スプーンをゆっくりと回す。そのポッチャリ体型はそのせいかと、冷めた目で動向を見守った。

「町の者も怖がるので、今工場は休止にしているんです。赤字ですよ、まったく…」

 ため息をついてから、また一口口を付ける。

「グルジアン町長。こちらは行方不明者に関してなにか情報を頂きたいのですが…。たしか話では…」

 工場の経営状態などはっきり言って興味ない。先を急かすように尋ねると、ちょっとつまらなそうに町長は顔をしかめた。

「えぇ。一人、連れ去られる瞬間を見たものがいましてね。その者がこんな事を言ったんですよ…」

 いかにもバカらしいというような顔をしながら、眉をしかめつつ身を乗り出す。

「『吸血鬼がいた。真っ赤な目をした、牙を持つ吸血鬼。吸血鬼の歌に呼応して、噛まれた人と共に闇に消えた』ってね。あまりにも恐すぎて、本人は震えて隠れてるので精一杯だったそうです」

 ニヤリと意地汚い笑みを浮かべると、身を引いてソファーに深く腰をかけ直す。

「吸血鬼…。ここらへんの土地には吸血鬼伝説か何かあるのですか?」

 不可解な存在だ。ピゼットは首を傾げながら尋ねたが、町長は相手にしたくないというように適当に首を振る。

「いいえ。そんな辛気臭い謂れのある土地に工場なんて建てやしませんよ」

 どうせただの戯れ言ですと言い括った彼の目を盗んで、ピゼットとギージットンは目を見合わせた。

「その人は、どちらに?」

「話を聞くだけ無駄ですよ。この町の外れに住む、イカレた奴ですからね」

 取り合わないというように片手を横に振って紅茶を一口啜る。

「いえ。こちらも対応のために少しでも情報を得たいと思いますので。場所とお名前だけでもお教えいただけますか? こちらで伺に行きますので」

 ニコッと微笑みながら言うと、まぁ教えるだけならと頷いた。

「場所はすぐわかりますよ。工場の裏に森があるんですが、そこを道なりに行くとたどり着きますからね。ファリバール・グッスと言う男です」

「そうですか。ありがとうございます」

 ペコリとお辞儀をすると、スクリと立ち上がった。

「早速伺に行きます。お話ありがとうございました」

 その言葉に、町長は驚いたように立ち上がる。

「もうよろしいのですか?」

 まだ話したりないのか、じっとピゼットとギージットンを見るが、ピゼットはその視線を笑顔で躱した。

「えぇ。ご協力ありがとうございました。行こっかギージットン」

「はい」

 そのまま、逃げるように屋敷を出る。早足のピゼットに続きながら、ギージットンは苦笑いを浮かべていた。

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