町長グルジアン
広場のような庭を歩いて行く。綺麗に整備された庭はまるで公共施設の敷地内のようだ。これが一個人の所有する土地だというのだから、工場はよっぽど儲かっているのだろう。
「ん〜権力だねぇ。スペースが無駄ぁ」
ピゼットが一言そう言うと、ギージットンはニヤリと笑いを零した。言う通り、門から玄関までが遠い。歩くには、些か不便を感じてしまう距離だ。
やっと扉にたどり着くと、ガチャリと自動でドアが開く。ハイテク!? と驚いて良く見ると、老人がただ扉を開けただけだったようだ。
「遠いところからわざわざありがとうございました。どうぞこちらへ」
背広をきっちり着込んだ白髪の老人が身を引いて招き入れる。
「失礼します」
愛想よく微笑んでから、屋敷に足を踏み入れた。
2人が入ると、静かに老人は扉を閉める。
「どうぞこちらへ。ご案内します」
この屋敷の執事なのだろう。そそくさと2人の前に出ると、ホールのすぐ前に聳える階段を素通りし、ゆっくり歩き出した。
階段の裏側の先にも、長い廊下が繋がっている。2階の敷地もさぞかし広いのだろうと思いながら、自慢げに並べられた高そうな骨董品や絵画が押し黙ってこちらを見つめていた。
「こちらでお待ちください。ただ今主人を呼んで参ります」
廊下に聳える一つのドアに手をかけると、会釈をしながら扉を開く。言われた通りに中に入り、待たせてもらおうと周りを見渡した。
応接室なのか、机の周りにはソファーが並べられている。煉瓦作りの暖炉があり、その上にはアンティークの小物や時計が並べられていた。
窓は綺麗な庭が見えるようになっている。ゆったりとした空間は、贅沢の一言につきた。小物や家具、どれをとっても高そうだ。
息を飲んで見つめていると、背後で扉を閉める音が小さく聞こえる。この家の関係者がいなくなると、くるりとギージットンへ顔を向けた。
「すんごいね。ここ、ホントに1個人の家?」
ギージットンはその言葉に苦笑いを浮かべると、ソファーへ歩いて行く。
「それだけあの工場が収益を上げているんでしょう。ピゼット隊長、歩き回って何か壊したら大変ですから、大人しくしていてください」
そう言いながらソファーの背後に回り、背もたれに手をかけた。
その言葉に不服とばかりに頬を膨らます。すると、ドアをノックする音が聞こえたので慌ててソファーに座り込んだ。
「失礼します。お茶をお持ち致しました」
清潔感漂うメイド服を着た女性が静かにドアを開けた。
「わざわざありがとうございます」
ギージットンはその女性に笑いかけながらお礼を言ったが、答えたメイドの顔はどこと無く引き攣っている。2m近い巨漢、しかも顔がゴツイ。本当は気の優しい男だが、一見怖く見えてしまうのだ。損だな〜などと思いながら、自分の机の前にお茶を置いてくれた時にきちんとお礼を言った。
その時、ガチャリとドアの開く音がする。ふと顔をそちらに向けると、少し小肥りの、長い髭を蓄えた老人が立っていた。
「私が町長のグルジアンです」
そう言うと、すたすたと部屋に入って来る。ピゼットは立ち上がり、2人でペコリと頭を下げた。
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