静かな町並みを越えて
 任務地に着くと、車から軽く地に降り立った。前方には、町が広がっており、ここが依頼をした町なのだとすぐにわかる。

 今回の任務は、この町を中心とした地域で行方不明者が続出しているということだ。この1月で姿を消した人数は50人に及ぶという。人々には不安と恐怖が走り、家に引きこもっているのだろう。辺りを見回しても、町並みに人の姿は見当たらない。

 ピゼットはくるりと後ろを振り向く。町に向き合うようにして、自分の背後には9番隊の人間がずらずらと並んでいた。

「俺はここの町長に話し聞いてくるからしばらく待機! 町にはまだ入らないようにしてな」

 声をかければ、一斉に隊員は敬礼をする。得にテロリストやギャングとの抗争ではないので、空気に血生臭い張り詰めた感じはない。ただ不気味に沈黙する町にまた向き合った。

「ギージットンはついて来て。他は皆のこと見ててね」

 副隊長であるギージットンを指差しながらそう言うと、4人のゲルゼールはそれぞれ頷いた。ギージットンだけ彼の背後に付き従うように並ぶと、2人で人気のない町に足を踏み入れた。




 周りを見渡すと、なるほど、家の中には人々の気配がある。だが窓という窓にはシャッターやカーテンが閉められ、外部からの接触を拒絶しているようだ。
 妙に自分達の足音だけが響ながら、ゴーストタウンのような道を進んで行く。

「相当怯えているようですね」

 ギージットンは辺りをくるくる見回しながら、思った感想を述べた。

「まぁ1日に1人以上のペースで人が消えてるんだから仕方ないだろね」

 その感想に頷いてから、町の中央についたのか、広場らしき場所を目にとめた。そこを越えると、町の家並みから少し離れた場所に大きな家が建っているのが見える。任務資料には、そこが町長の家だと書かれていた。

「あそこだね。じゃ〜詳細聴きに行きますか」

「はい」

 もう見慣れてきた寂しい光景を見回すこともなく、だんだんと近付いてくる大きな家を見据えながら歩く。近くで見れば見るほど大きく、立派な佇まいだ。家と言うよりは屋敷と言った方がしっくり来るかもしれない。

 この町はオマラージュと言う。町の奥には巨大な織物工場があり、町人の殆どがそこに勤めているという工業町だ。
 他国との貿易もあるこの町は、規模に反して資産がある。町長はそこの工場長でもあり、この大きさの屋敷に住んでいるのも不思議はないなと思った。

 どうやら屋敷は少し高台にあるらしい。坂道を上りながら、後ろを振り返ると、やはり淋しく静まり返る町があった。公園なども見えたが、子供の姿はない。

 また前を向き直して歩くと、屋敷の入口にたどり着く。厳重な門の奥には広大な庭があり、その奥に拾い屋敷が目に入った。

 門を支える塀に、呼び鈴を見付けてボタンを押す。ジリリリリと言う予想以上に大きな音に一瞬ドキリとしたが、すぐに声が聞こえてきた。

『どちら様ですか?』

 インターホンから、老人らしい声が聞こえてくる。

「御依頼があり参りました。ファンタズマ、9番隊隊長のピゼット・オルズレンと言う者です」

 始めは訝し気な声色をしていたが、その名を聞いてパッと明るくなった。

「おぉっ! ファンタズマのお方ですか!! お待ちしておりました。どうぞ中へ」

 声と共に、ゆっくりと門が開き出す。2人は言われた通り、屋敷の敷地内に足を踏み入れた。

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