変わらぬ光景の中で
 空は任務日和。美しく晴れており、湿気の少ない渇いた気候。運動するには持って来いという感じだ。

「へぇ〜。つまり、そっちもテロリストとの抗争じゃないんだ〜」

 任務に向かう車の中で、男は通信機に向かって話していた。ひょろりとした小さな体。両の頬には白いテープが止められていて、くるんとした大きな瞳を楽しそうに細めている。焦げ茶色の髪は、1本だけヘロリとアホ毛が立っていた。

『そうそう。このご時世にギャングの町占拠の救出要請。たく、忙しいってのに面倒だぜ』

 その男が持つ通信機から、別の男の声がする。ため息混じりの声は、今回の任務への若干の憤りが混ぜられていた。

「ただでさえテロリストの動きが目立ってきてるからね〜。俺達の仕事って増える一方。ギャングさんにはそんなの関係ないんだろうねぇ。まぁ、人助けなんだから手は抜いちゃダメだよセル」

 のんびりした口調で注意すると、豪快な笑い声が返ってきた。

『ったりめぇだっつの! フルボッコにしてやるぜ! つーかピゼ、お前はどんな任務なんだ?』

「ん? 似たようなもんだよ〜。ちょっとある地域で行方不明者が続出してるからその調査」

『お、俺んとこより激しい貧乏クジじゃねぇか…!』

 ファンタズマは、ギャングやテロリストとの抗争ばかりではない。このような治安維持に務めるのも仕事の内である。

「なはは。まぁお互い頑張ろね〜」

『おうっ! じゃぁまたな〜』

 別れを交わすと、連絡が途切れる。ピゼットは小さく微笑むと、通信機を服のポケットにしまい込んだ。




―搦め捕られた蝶の羽―





「ピゼット隊長…またセルマ隊長と通信ですか?」

 一段落着くと、隣に座っていた男が半ば呆れたように口を開いた。ピゼットとは対照的に、大きな体をした男だ。同じく顔も大きく、埋もれるような小さな目が自分を捕らえている。

「毎回任務の度に連絡取り合ってますね」

 その体から出るのは低く野太い声。だが、優しさが滲み出すような、安心感を帯びた物だった。

「ま、俺達ってば大の親友だから」

 にっと歯を見せて笑うと、その男の太い指を1本摘み上げる。

「そう毎回連絡取り合うだなんて、遠距離恋愛みたいですね」

「何々!? ギージットン、今遠距離恋愛って言った!?」

 男が冗談めかして言うと、少し離れた場所に座っていた少女が身を乗り出してきた。途端、ギージットンと呼ばれた男とピゼットの顔にしまった! っと言った表情が浮かぶ。

「や〜! やっぱピゼット隊長が受けだよね!? 遠距離なセルピゼ? 萌え〜〜〜!」

 薄ピンクの髪の1部を二つに結び、アイラインバッチリ、睫毛くるんくるんな、ちょっと化粧が濃い目の少女。パンキッシュな恰好の彼女は、1人でテンションを上げて叫び出した。

「ヤダー!! そんなのヤダー!! 何が悲しくてセルと!? 気持ち悪いわ〜!!!!」

 少女が頬を染めながら叫ぶ姿を見て本気で鳥肌を立てながら、ピゼットは必死に意義を唱えた。間違ってもらっては困るが、彼は微乳+年下の女性が好みである。

「ニーナ。妄想はそれくらいになさい。これだから貴方は…」

 ピゼットの否定も虚しく勝手に妄想を口走り始めている少女に、別の女性がぴしゃりと言った。肩に届かない黒髪を柔らかくウェーブさせた、落ち着いた雰囲気を持つ女性だ。

「想像くらい自由でしょ〜? シェリンダは同じ女の子なのにこのトキメキわからないかな〜?」

「わかりません。私は貴方みたいに若くはないからね。それに、人にはそれぞれ趣向があるものよ。貴方がそっち方面が好きなのは否定しないけど、周りのことを考えながら発言なさい。本人の前での発言なんて言語道断ですよ」

 ニーナは頬を膨らませながらぶつぶつと文句を言ったが、逆に説教をされてしまった。

「話が合う人とだけ話しなさい? もう耳たこぉ〜」

 テンションが下がったのか、耳に指を当てながらわざと大きなため息混じりに言う。「つまんない」などとぶつぶつ言いながらどさりと座り直すと、拗ねてそっぽを向いてしまった。

「えっと…一段落着きましたか…?」

 少し沈黙が訪れると、今まで黙っていた男が怖ず怖ずと口を開いた。

「あ、うん。ハル、どうかした?」

 いかにも困惑したように眉を下げ、おどおどした男を見ながらピゼットは首を傾げる。

「はい…あの、そろそろ現地到着するので…その…」

 少し疲れたような顔をしたハルは、指を口元に宛がいながら目を泳がす。その様子は、いかにも自分に自信がない人の典型だった。

「あ、そろそろみんなに伝令出さなきゃね。ありがと〜」

 ニコッと微笑むと、ハルは少しホッとしたように胸を撫で下ろした。今の会話だけで、5歳は老けたように見える。

「え〜こちらピゼット!」

 ピゼットは目の前に置かれていた機械を手に取ると、電源を入れて話し出した。機械に設置されたディスプレイに、カメラを通して自分の顔が表示されている。これは他の車のスクリーンに繋がっており、そろそろ到着することや、何か伝令が有るときに使用される物だ。

 ピゼットが伝えている間、ギージットンは困ったようにハルを見る。

「ハル…間違ったことなんて言ってないんだから、もっと自信持っていいんだぞ…?」

「す、すいません…でも…どうも自信が持てなくて…。ホント…僕ってどうしようもない人間ですね…」

 げっそりとしながら深いため息をついた。これでも彼は20代の半ばも越えた成人男性である。この実力主義のファンタズマでゲルゼールにいるのだから、実力はあるのだ。だが、いつまでも自信が持てない自分を罵りながら、続けざまにまたため息をついた。

「ハル…ため息ばかりつくと幸せ逃げちゃうよ?」

 そんな彼を見て、呆れたようにニーナが口を開く。

「そうですね……。僕ってどうしてホント…」

 さらに自分を問い詰めて暗くなる。今にもキノコが生えそうなじめじめしたネガティブオーラを纏だして、一同は苦笑いを零した。

「さ、気分入れ換えて! 今日も任務頑張ろ」

 通信を終えたピゼットは、1回パンッと手を叩いて周りの注目を集める。ここまでは、いつもと全く変わらない光景。だが、任務はいつも違うことが起こる。笑顔で言ってから、さて今日はどうなるだろうと任務に思いを馳せた。

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