利用価値
 ここは昼も夜も真っ暗だ。朝や昼間には遮光カーテンが閉められ、逆に夜に窓が姿を表す変わった部屋。なぜこの男はここまで暗闇を好むのかと思いながら、ラクシミリアは手に持つ物を静かに撫でた。

「どうです? 順調ですか?」

 赤い髪に、赤い目をした男が、そんな自分を見ながら尋ねてきた。

「いや。正直全く進んでいない」

 問いに首を振ると、訝し気に眉を潜めた。

「貴様はこんなことをして何を企んでいる?」

 目を細めて、小さく笑んだ男を睨むように見つめ続ける。

「貴方に質問など無意味でしょう…? 心が読めるのなら」

 カーテンの閉められた窓に歩み寄ると、そっと布に触れながら口元に笑みを携えた。ムッとして、ラクシミリアは顔をしかめる。

「アイル・モルソー。貴様は私をおちょくっているのか?」

 少し怒気が含まれた声で言い放った。彼女の周りから、部屋の闇よりも黒い、どす黒いオーラがじわりと溢れ出してくる。

「貴様の心は読めん。貴様は閉心術を心得ている。読ませたい事だけを読ませ、肝心の場所は上手く隠しているではないか」

 イライラを直にアイルに向けるが、アイルはふっと笑っただけで躱してしまった。

「貴様がその気なら、私とて協力はしてやらんぞ」

 手に持っていた鉱石を床に投げ付けると、ずんずんと歩いて部屋から出て行こうとする。

「ラミア」

 だが、アイルは進行を阻むように彼女を呼び止めた。ぴたりと足を止めると、目を細めながらゆっくり彼に振り返る。

「仕方ありません。貴方の協力なしには、この計画はなりたたない」

 ようやく話す気になったらしい。くるりと体ごと振り返ると、背の高い男を見上げた。

「ではもう一度問おう。"神の心"に呪術を施してその効力を限定させようとしているのはわかる。私の意志で、効力を操れるようになればこれはどんな銃火器より強力な武器となるだろう」

 じっと彼の赤い瞳を睨んでから、ふと視線を反らす。

「だが、一つわからぬ」

 先程投げ捨てた"神の心"の元へ歩いて行き、拾い上げてからまた彼を見つめた。

「なぜ、呪術によりあんな機能を付けようとしているのだ? だいたい、どちらも私の呪術の及ぶ範囲かも定かではない。なのに、なぜ作戦の中心にこれを持ってくる?」

 成功できるかもわからない事に全てを賭けるなど、大戦を目前にしているとしてはあまりに稚拙過ぎる。この男は、他の作戦を用意している風もない。
 この男にしては、用意が散漫だ。もし失敗したらどうするのか。

「いえ。貴方は必ず成功させます。そして、あの機能は来たる日のために必要不可欠な物です」

 アイルはふっと笑うと、ゆっくり言葉を動かした。

「それでは、答えになっていない」

 イライラした声色で言い放つが、アイルは相変わらず笑っているだけだ。

「いずれわかります。もう、動き出しましたから……」

「………貴様とは会話が成り立たんな」

 相変わらず話す気などないらしい。皮肉めいてそう言い放つと、今度は決して振り向かないつもりでドアへと向かった。
 今度は呼び止められる事もなく、バンッとドアに怒りを叩き付けるように部屋を出て行く。

 あの食えない男が嫌いだった。自分の容姿が幼いからと、見下しているのだろうか。所詮あの男にとっては、自分は道具でしかないのだろう。
 きゅっと下唇を噛む。これも、自分を殺してもらえるまでの我慢だ。もう、自らの死以外には何も求める必要はない。

「良いだろう…今は貴様の道具になってやる。最後は、私の望みを叶えるために利用させてもらおう」

 一度振り返り、アイルの部屋のドアに小さく言葉をぶつけると、足早にその場を去った。

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あきゅろす。
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