謎の醍醐味
ものの数分で大浴場にたどり着くと、シルハは有無も言わさず服を脱がされ浴槽の中に放り込まれる。勢いよく放り込まれた所為で浴槽の底に頭をがつんとぶつけ、声にならない声で叫びわめき、水をばしゃばしゃと揺らしながらのたうち回っていると、服を脱いだ他の3人がまるで子供がプールにダイブするようなテンションで飛び込んできた。
大人3人が一斉に飛び込んで水は噴水のごとく高く舞い上がり、派手な音を鳴らしながら床に落ちる。水かさが一気に減り、座り込めば肩ほどまであった湯量は今では胸当たりまでしか無くなっていた。
もったいない…。
シルハは突然の乱入にあがらう術も持たずに流れ出してしまった暖かいお湯を見て思う。当の3人は次から次へと注がれるお湯があるからと、全く水の行方など心配していないようだった。
環境に良くないので皆さんはお湯の無駄遣いは止めましょう。
「ふぁ〜気持ちいいね〜」
時間が時間だからか、この大浴場には人が運良く居ない。もし誰か居たら今の行いは多大なる迷惑行為になっていたが、人がいなかったために救われた。
ピゼットは元から身長が低いためか、なかなか丁度良いお湯の量に満足気に顔をほころばせる。方や身長の高いセルマは湯量に不満があるような顔をしていたが、自業自得と理解しているためか、口に出して文句は言わなかった。
「ちっくしょう!!なんでこんなに量が少ねーんだよ!なめてんのか!?」
違った!!あえて言わなかったのではなく考え込んでいただけのようだ。シルハはセルマのかなり自己中心的な発言に思わず浴槽の縁に頭を打ち付けた。
「痛っ!!」
「何やっとんのや…アホちゃうか…?自分」
自らぶつかりに言って額を抑えて痛がっているシルハにあきれ顔でナナハが言う。
「どこのMッ子やお前は」
追い打ちの様なナナハの発言に赤くなった額をさすりながらシルハは苦笑いをした。
やっと落ち着いてからシルハはぐるりと大浴場を見回す。
ファンタズマ本部の構内には3つの大浴場があった。シルハは普段1番、2番隊隊舎に近い大浴場に入っていたが、ここはどちらかというと一番2番隊隊舎から遠く、10番隊の隊舎が一番近い浴場だ。普段は言っているところは洋風な作りで、白を基調とした明るい浴場だったが、ここの浴場は和がモチーフのようで、シルハ達が身を沈めるこの浴槽も木で作られていた。
ファンタズマはアルカリ性の強い温泉を引いているため床がヌメヌメとよく滑る。木造のこの浴場はさらによく滑って、立ち上がる時に転ばないように注意しなきゃ、とシルハは浴槽の側面をさすりながら思った。
奥の方には木の扉があり、丸くガラスがはめられ中がのぞけるようになっている。ドアの横にはプレートが掲げられ、【サウナ(塩)】と書かれていた。
「あの(塩)ってなんですか?」
シルハは指を指しながら誰にともなく尋ねてみる。
「ん?あぁ、あれは塩サウナや。身体に塩塗ってサウナに入るんや。ダイエット効果があるとかないとか女子達は騒いでたで?」
実際はどうだかって感じやけど、と付け加えてナナハはシルハに説明をしてくれる。やっと(塩)と書かれた意味を理解したシルハは頷きながら視線を逸らした。そういえば普段使う浴場にもサウナがあった。たしかハーブのサウナで、日ごとにハーブが変わっていた気がする。最後に見たのはラベンダーだったけなどと考えながらシルハはクルリと一週見回した。
「あれ…」
サウナの扉より右の方に顔を持って行くと、扉が目に入る。なんだろうとシルハは首を傾げながらプレートに目を遣った。
【露天風呂】
「露天あるんですかここ!」
自分が普段使っている場所には大きなメインの浴槽の他に小さなジェットバスが配備されている。ここにはどうやら露天風呂が付いているようだ。
「お、さっそく目を付けやがったな」
セルマはやっとたまってきた湯を手で肩に掛けながらにっと笑う。
「あそこはいいよ〜!何たってここの醍醐味だからね〜」
ピゼットもニヤリと笑ってシルハとナナハを交互に見た。
「2人とも…ここの浴場使った事ある?」
なにか悪戯を考えて早く試してみたくてうずうずしているような、そんな輝きを目に入れながらピゼットは2人に尋ねてくる。
「いえ…いつもは別の場所使ってるんで…」
「ん〜わいもやな〜」
シルハはそんな瞳に疑心を持ちながらもおずおずと答える。ナナハは浴槽の縁に片腕を乗せて瀬を預けるような体勢を取りながら、もう片方の手で顎に手を当てて天井を見ながら答えた。
「なら行こうぜ!!最高のスポットなんだからな!!」
「あそこを知らないのは男として人生の半分は損してるよ!!」
セルマとピゼットは嬉々とした面持ちでガバリと立ち上がる。シルハとナナハは2人の突然のアクションに驚いて目を見開いた。
「お、まさかのアレかいな」
ナナハは何かにピンと来たらしくにっと微笑みながら仁王立ちをしている2人を見る。にっとナナハに笑みを向けた2人と、それを見て楽しそうに笑ったナナハを交互に見ながら、シルハは事の展開が読めずにキョトンとしていた。

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