友情と付き合いを
下から迫られるのは決して気持ちの良い物ではない。下からの驚異は、上からの圧力よりも怖いモノがある。
だが今に満足して停滞してしまう事が最も怖い事。こういう刺激、驚異は大事にしなければいけない。
現状に満足した物に訪れるのは、この世界では"死"なのだから。
「うっし、俺らもやんなきゃなぁピゼ」
「だね〜っとその前に」
にっと2人で顔を見合わせて笑う。それもさもこれから悪戯をしようと言うように。
シルハとナナハは2人がなぜそんな顔で笑うのか理解できずに目を丸くしながら2人の顔を交互に見る。
「セル!頼んだ!!」
「合点だ!!」
「「どわぁぁぁぁああああああ!!!」」
セルマは何かを承知するとぐいっとナナハとシルハを持ち上げて脇に抱える。急な動作にさっぱり意味がわからずシルハとナナハは目をパチクリさせた。
「《描かれた夢は生を受け自由を手にする》」
その途端、ピゼットの呪文念唱が響き渡った。
魔力が空間に溢れ、それは次第に輪郭を形成しだし、色を持ち始めた。
〈キュァァァアアアア〉
耳を劈(つんざ)くような声を出しながら姿を現したのは巨大なカメレオンのような召喚獣だった。巨大な目は飛び出す一歩手前と言うほどにまで出ており、瞳孔は二重丸の形をしている。赤と黒の派手な目に劣らず傾向に近い色を放つ緑の胴体。普通のカメレオンより相当長い手足は、人間の手のように広がった4本の指が付いていた。指の先には滑り止めなのか、丸い球体が付いており、さながら蛙のようだ。
長いしっぽを嬉しそうに左右に振り、長いピンク色の舌を出したりしまったりしている。
「よっと」
いきなり何をしようとしているのかさっぱりわからず、展開について行けずに固まる2人をよそに、ピゼットと2人を脇に抱えたままのセルマはそのカメレオンと蛙の合体盤のような召喚獣に飛び乗る。
「いっけぇぇレオルット!!」
ピゼットのかけ声と同時に、レオルットと呼ばれた召喚獣は一気にトップスピードで中央棟に向かって走り出した。
「「ぎゃーーーーーーー!!!」」
走り出した4人と一匹の姿はもう無い。悲鳴だけが持ち主のスピードに追いつかずに、誰もいなくなった広場に響いていた。
見かけとは裏腹に本当に早い。ぎゅんぎゅんと景色が過ぎていき、髪は風に煽られて丸で逆立っているようになる。余りの勢いに目が開けられずに、シルハは抵抗で頬の皮膚がビロビロ言ってるのを無抵抗で感じていた。
「ど、何処に行きはるん!?」
ナナハはなんとか風にに負けないように声を張り上げる。セルマはにっと笑うと、背中を丸めてナナハに顔を近づけた。
「ほらぁ。裸で語らい合うのが男の友情って言うじゃねぇか〜」
「ほ!?」
突然飛び出した突拍子もない言葉にナナハは目が点になる。シルハは風のうなり声の所為でセルマの言葉が良く聞き取れずに顔を顰(しか)めた。
「大浴場行こうよ大浴場!!最近自室の風呂ばっかだったからめっちゃ久しぶりだよ〜ん!!」
にっこりと笑いながらピゼットが、この風の騒音にも負けないハッキリした声で嬉しそうに言う。
「え?風呂に行くんですかこれから!?」
「だってキミ汗だくだし〜疲れ取るのも風呂って最適じゃん!裸の付き合いも大事だしね!!」
シルハの鼻面をビシリと指しながらピゼットは歯を見せて微笑んだ。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!