さらなる高見へ
憐れなグラディを生み出した後、シルハはピゼットやナナハ、笑い続けるセルマの指導の元かれこれ何時間もグラディ作りに取り組んでいた。
「だからぁ!バネの構造をしっかりイメージしなきゃ!!立体じゃなくて平面しかイメージしないから重なった部分の造型が出来なくてバネがこんな粉々になっちゃうんだよ?」
修行の成果も合ってかなんとか胴体を丸く作れるようになったものの、未だに手足となるバネが作れない。シルハは大汗をかきながら肩で息をしていた。
「ピゼ〜そろそろ日も暮れるぜ?ここまででいいんじゃねーの?」
「シルりんは絶対造型魔法の才能がないんやて」
もう半分飽きかけてる男2人がほざき合う。ピゼットはキッとそんな2人を睨み付けたが、シルハはぶっちゃけ嫌になっていた。
「す、すみません…少し休ませてくださ…」
「あれ?疲れちゃったん?じゃぁしゃぁないねん」
膝に手をつきながら身体を折って苦しそうに呼吸するシルハを見て、まだ少し不満そうだがピゼットはやっとシルハの挑戦を切り上げる。シルハはホッとしたように息をつくとそのままその場に倒れ込んだ。
「お、おい小僧!!大丈夫か!?」
慌てたようにセルマが駆け寄ってくるが、もう言葉を返す力も、笑みを浮かべる余裕もない。ぐったりとその場に項垂れて、シルハは死んだように動かずに座り込んでいた。
「わっごめん!!やりすぎたね!」
そんなシルハを見てやっと限界がとうに過ぎていた事を悟ったピゼットは手を合わせて謝罪する。シルハは口の端だけ持ち上げてやっと笑顔を作るが、またすぐに顔を伏せた。
「シッルり〜ん。魔石晶、今持っとる?」
ナナハはそんな力が抜けきったシルハの身体を後ろから軽く支えながら意識が朦朧としかけているシルハの耳にも届くようにゆっくりとした口調で話しかける。シルハはゆっくりと頷くと、震える手でベルトに付いているポーチから魔石晶を取り出した。
「ん?これこの子の魔石晶?」
ナナハがシルハから受け取った魔石晶を眺めながらピゼットは元々丸くて大きな目をさらに丸くする。セルマも興味深げに魔石晶を覗き込んだ。
「……なんだ…これ…?」
セルマは眉間にしわを寄せながら魔石晶に顔を近づける。こんな魔石晶、今まで見た事なんか無い。
「おもろいでしょ。コイツ魔力が2色あるんやて」
にっと細い目をさらに細めながらナナハは微笑むと、夕日に透かすように少し上に持ち上げて魔石晶を観察し出す。やけに思い頭を無理矢理持ち上げて、シルハもその魔石晶を見つめた。
「シルりん残念。色の度合いはなんも変わっとらんよ」
何時間も魔力を使い続けたから、どちらか一方の魔力に色が偏ってきたかと思ったが、相変わらず半分半分で光のリボンは輝いている。シルハは少し期待した分がっかりとしてさらに身体から力が抜けた。
「魔力が2種類…魔力量もだし…」
「半端ねぇな。俺らもうかうかしてらんないぜ」
かなり大量の、そして異質の魔力を持つ新人。その存在に脅威を感じた2隊長はにっと笑みを零した。
自分たちものんびりしていたら抜かされてしまうかもしれない。
それはとても怖い事だ。仮にもトップに立つ人間がこうもあっさり新人に抜かれてしまうなど、精神的にも世間体的にもあまり良い物ではない。
だが2人は笑った。
それは大事な刺激になるからだ。
強くなって、トップに立って、上に向かう事を止めてしまう。そうなっては強くなれない。
もっと高見へ。
そう思わせてくれるのは、やっぱりこういう存在が居てこそだ。
これは楽しくなりそうだ。
ピゼットとセルマは互いに微笑み合うと落胆した姿を見せるシルハを見つめた。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!