LET'S TRY
「無理です!!」
シルハは×印を両手で作りながら精一杯否定をする。ピゼットとセルマ、そしてナナハはそんなシルハをポカーンと見つめていた。
「俺、本当にまだ無理です…!!だって昨日だって…水に魔力を送り込んで動かすのも無理だったんです!!」
シルハはそのまま頭を抱えて逃げるように後ろに下がる。セルマががしりとシルハの腕を掴んで無理矢理元の位置に戻した。
「わかったわかった。まぁやってみろって」
子供みたいに頭をポンポン撫でられて励ましながらシルハを勇気づけるようにセルマは言う。それというのは、作ってみろと促された途端「無理だ」と言い張ってシルハが"ストーリーサモンズ"に挑戦しようとしないからだ。
確かに"ストーリーサモンズ"の難しさを教えられた上に自分は魔力コントロールにからしき自信がないのだ。まぁシルハの気持ちもわからなくはないとナナハは苦笑いでその様子を見つめていた。
「呪文はわかる?」
「は、はい。…あの…変なの出来ても笑わないで下さいね…?」
シルハはおずおずとピゼットとセルマ、そしてナナハを順繰りと眺める。ピゼットとセルマは任せろと言わんばかりにグッと親指を立てて合図する。ナナハもにっこり笑いながら2人に習って親指を立てた。
シルハは目を閉じると数回深呼吸をする。もう一度目を開いて何を作るのか、じっとピゼットが生み出した4匹を眺めた。
いっぺんに4匹のイメージをするのは不可能だ。そう割り切ったシルハは1番想像しやすそうな物を探す。
「よっし…コレ、作ります」
ビシッと指を指したのは銀色の丸を重ねた頭と体。バネ状の四肢の先に赤い鉄球を付け、顔にも丸い赤い鼻。目は糸状の何とも情けない姿をした召喚獣である。
「お、グラディね。じゃぁまずはコイツのビジュアルだけ作ってみてみん」
ピゼットに言われ、シルハはこくんと頷くと目を閉じた。
「"ストーリーサモンズ"に特に難しい魔力操作とかはないんよ。取りあえず形だけ想像して呪文唱えりゃビジュアルだけなら問題なく作れるよん。ただ細部までしっかりイメージしてねん」
「はい…」
シルハは真剣な面持ちでグラディと呼ばれた鉄球のお化けのような召喚獣を見つめる。魔力を練り込んで発動の準備をした。
シルハの髪が自らの体から放つ魔力はどうでパタパタと揺れる。ピゼットとセルマが驚いたように顔を見合わせたが、シルハはそんな2人に気づくことなくグラディを凝視し続けた。
「《描かれた夢は生を受け自由を手にする》」
途端に魔力がシルハの体からあふれ出し強風を巻き起こす。砂埃が目に入らないように目を細め、顔を手でかばいながらナナハはシルハの姿を見つめ続けていた。
ピゼットやセルマは強い風にナナハと同じように手でかばいながら目をギュッと閉じる。さらに体の小さなピゼットは、かなりの強さをもって吹き付ける風に、飛ばされないように足を踏ん張っていた。
風が収まってくるとピゼットとセルマは閉じていた目を開いてシルハの方を見つめる。
「ピゼ…こいつ…」
「うん…確か…バーサーカーだったはず…」
驚愕という表情でシルハを見つめた2隊長は朗らかだった顔を緊張させる。ナナハはその様子を見て目を伏せた。
「あっれ〜!!!??」
そんな緊張した空気が流れる中突如シルハの間抜けな声が間に割って響いてくる。
「ど、どないしたん!?」
ナナハは驚いてシルハの方に顔を向けると、泣き出しそうなほど目を潤ませたシルハが小さく震えて立っていた。
「ぜ…全然ダメなんですけど…」
震える指でシルハが指した方向を目で追うと、そこにあった物に3人は目を丸くする。
そこにあったのは何か銀色の物体だった。丸いからだ、丸い頭、糸目に真っ赤な丸い鼻。そこにあったのは確かにシルハが生み出そうとしていたグラディだった。
しかし何かが違う。バネ状の手足はボロボロに崩れてグラディは立つ事が出来ずにごろんと転がっている。よく見れば、ちゃんと丸くなっているのは表側だけで、裏側は全く形が出来てなかった。
「ちょ、もしかして表面からのイメージしか描かなかった!?」
ピゼットは完成されたグラディに駆け寄って体を持ち上げながら尋ねる。表から見れば良くできているが、裏側は全くの空洞だった。
「み、見たイメージだけ…」
「ダメだよ!細部まで、それこそ脇の下までしっかりイメージしなくっちゃ!!」
慌てたような表情でピゼットは言ってから、額に手を置いて溜息をつく。
「ま、人には得意分野と不得意分野があるさかい」
ナナハは憐れな完成度のグラディを見て笑いをかみ殺しながらシルハに近寄り背中をパンと励ますように叩く。シルハは苦笑いをしてから、約束したのにもかかわらずそこで笑い転げているセルマを苦々しい表情で見つめた。

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あきゅろす。
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