プレゼント
「ん?興味ある?」
まじまじと人魚を観察するシルハに気づいたピゼットはシルハの顔を覗き込みながら尋ねる。シルハはちょっと頬を赤らめながらこくんと頷いた。
「じゃ、やり方教えたげるからやってみよっか」
「えぇ〜〜〜!?」
ピゼットの突然の提案にシルハは目を見開いて叫びながら退く。ピゼットとセルマはシルハの叫び声に驚いたらしく退き、妙な溝が出来てしまった。
「ピゼット隊長〜。こいつも力のコントロールへったくそやから無理やて」
3人の間に見事に開いてしまった溝の間に立ってナナハがにっと笑いながらピゼットとセルマの顔を交互に眺める。ピゼットとセルマはナナハの顔を見てからシルハの顔を見つめた。
2人の顔をまじまじと見つめられ、恥ずかしくなって顔を思わず人魚の方に向けて視線を逃れようとした。
「下手くそなんて気にしちゃダメだよん!この魔法に肝心なのは想像力なんさ」
ピゼットは人差し指を左右にふってちっちっちと軽く舌を打つと、シルハの顔を押さえ込んで無理矢理自分の方に顔を向けさせた。
「なんか想像してみなん。『こんな召喚獣居たらかっこいいな』とか、『こんな召喚獣が相棒に欲しいな』とか…」
「想像…ですか…?」
「うん。ゆっくり、細部まで想像するんよ」
ピゼットの言葉にシルハは顔が固定されているために目を伏せて返事をすると、そのまま目を閉じて思い浮かべる。居て欲しい召喚獣…。シルハは突然の事になんにもイメージが浮かばなかった。
「あ、そやシルりん。ええ事思いついたで?」
「はい?」
ナナハは突然手を打ちながら明るい声色を出す。シルハはまだがっちり固定されているために視線だけをナナハに向けた。体が小さくて、幼そうなイメージを与えるのに力がかなり強い。わずかに視界に飛び込む細腕からは想像も出来ない強さだ。
「もし"ストーリーサモンズ"で召喚獣作れるようなったら自分の修行相手作りゃええやないの」
自分の修行は実践に限る。いくらタピスが付き合ってくれると言ってもいつでも帰還日が被るわけではないし、他に当たるのもなかなか気まずいものがある。もし自分で修行相手を作れたら、1人でも実戦式な修行が出来るのではないかとナナハが言った。
「ん?何?修行相手探してんの?」
「熱心だな〜小僧」
ピゼットはやっとシルハの頭から手を離して顔を解放しながら目を丸くする。随分と真面目な事だとセルマは感心したようにシルハを眺めた。
「ん〜じゃぁ俺のモデルいくつかあげようか?熱心な子には親切にしたげるよ〜」
ピゼットはにっと笑いながらシルハを上目遣いで見つめてくる。シルハは驚きで自分でもビックリしてしまう位大きな声を出してしまった。
「い、いいんですか!?」
「うん!初心者に優しいモデルをプレゼント!今から作るからそれ観察してね」
それしか方法無いから、そう言いながらピゼットは一気に魔力を練り込んだ。
膨大な魔力が空気を揺らす。びりびりと振動する波動を感じながらシルハはじっとピゼットを観察していた。
「《描かれた夢は生を受け自由を手にする》」
ピゼットの、今までの飄々としたような、子供っぽい声とは一変して美しい声色でそれは響く。呪文が紡がれると魔力の濃度が一気に増し、それがそれぞれの形に凝縮して、色を持っていった。次第にフォルムを現し、完璧に完成したのは4体の召喚獣だった。
1匹目はまるでライオンのような姿をした物だった。
黄色い毛に真っ赤に燃えさかる鬣(たてがみ)、真っ赤なルビーのような瞳。しっぽの先の毛も煌々と燃え、首と足首にはには金色に赤い宝石みたいに輝く石がはめ込まれた首輪が付けられていた。
2匹目はまん丸の黄色い顔。顔よりちょっと大きい緑色のまん丸の体。頭からは巨大な葉っぱが生え、手は緑色で蔓(つる)のようになっていた。足はテディーベアの様な形をしており、顔と同じ黄色をしている。真っ黒なまん丸の目に楕円形の赤い花がついたかなり可愛らしい顔をした物だった。
3匹目は雪だるまのように白くて丸が二つ重なった胴体、糸目に真っ赤な丸い鼻。手足はバネで出来ており、さきっちょに真っ赤な鉄球のような物がついていた。
4匹目は大きな耳に丸めの体、まあるい瞳にピンク色のほっぺ。柔らかそうな肉球が付いた大きな楕円形の足に先っぽが二叉に分かれたしっぽを持っている。額には真っ赤な宝石が埋め込まれており、背中からは羽が生え、それでフヨフヨと宙に浮かんでいた。
「超初心者向け簡単生み出せモデルの4点セット!好きなだけ観察して良いよ〜」
一回の呪文念唱で4匹生み出すすご技を見せつけたピゼットは、ずらっと並んだ4匹を示しながらにっこり微笑む。シルハは驚きのあまりポカーンと口を開いたままピゼットと生み出された召喚獣を交互に見つめていた。

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