"ストーリーサモンズ"
「はぁおっかしかった〜」
やっと笑いが止まったピゼットは荒い呼吸で肩を上下に動かしながら零れてきた涙を指で拭った。ピゼットの言葉でようやくセルマとナナハも笑いを止めて酸素を取り込む事に徹する。シルハはそんな三人を白い目で見守っていた。かれこれ15分くらいぶっ通しでこの3人は爆笑していたのだ。時折下らない冗談を言い合い、その内容にそぐわないほど豪快な笑いを返す。人間テンション高くなると何でも楽しく感じるんだな、とシルハは冷静な頭で理解した。
「そや、ピゼット隊長〜、あの人魚はんどんな能力持ってるん?」
ナナハはやっと呼吸が落ち着くとピゼットにシルハの隣にいる人魚を指さしながら尋ねる。ピゼットは幼い顔ににっと笑みを浮かべて話し出した。
「こいつは特に優れた能力は持ってないんよ。陸上ではほぼ無力だね。水中では歌で超音波攻撃くらいかな?セルのために作った召喚獣だから特に能力とか作んなかったんよ」
ピゼットは人魚の元に歩み寄って、波打つ髪を指でとかしながら説明をする。シルハは飛び出してきた単語に驚いて顔を上げた。
「これ、召喚獣なんですか?」
召喚獣と言うのは一般的にそれぞれの属性魔法のSランク魔法として存在する魔法の事である。自分の魔力で生み出した召喚獣が意志を持って攻撃をしてくれる魔法だ。ここの召喚獣が出来る行動は決まっていて、その場に応じた召喚獣を使う事で戦闘を楽に出来る。
この人魚は見た目的に水属性に見えるが音波系の攻撃を持つ水属性はいないはずだ。水属性の召喚獣は水系の能力しか使えない。
「ん。これは一般の召喚獣とは違うんだ」
「小僧。おめぇ"ストーリーサモンズ"って魔法知ってるか?」
セルマの口から出てきた真新しい魔法の名前にシルハは首を横に振る。初めて聞く魔法にシルハの目は自然と輝いた。
「えっとね。これは召喚獣を作り出す事を目的とした特異魔法なんだよ。"ストーリーサモンズ"ってのは、普通の召喚獣のように既に決まった形、決まった能力の物を生み出すんじゃなくて、自分の頭の中でイメージした物を具現化する魔法なんだ。自分の頭の中で今から生み出す召喚獣はどんな形をしていてどんな能力を持っているかを考えるんだ。能力の数だけ使用魔力も増えるし大きくすれば大きくするほど具現化するのも難しくなるけど、きちんと使いこなせればそこら辺の召喚獣よりずっと使い勝手の良い召喚獣が生み出せるんだ」
水の召喚獣は水系の魔法しか使用できない。しかし、この魔法で生み出した召喚獣は他の魔法を使用したりもっと特殊な行動を取らせる事も出来る。
特殊な行動で上げられるのが形状変化だ。
一般の召喚獣は固有に決められた形にしかならないが、この魔法で生み出された召喚獣は、そう言う能力さえ付属しておけば自らの体の形を変えたりする事も出来る。それがこの魔法の利点だった。
ただし使用はかなり困難だ。
もとから形の決まった召喚獣と違って全てが頭の中で作られる。もし一部でもイメージするのを忘れたら、例えば片足だけ無い、未完成な召喚獣が生まれてしまうのだ。それに欲張って能力を付属させすぎると使用魔力が半端無い事になってしまう。自分の中に召喚獣を作り出しただけの魔力が残っていないと召喚獣は形を保てなくなってしまう。以前、イーディテルアと戦った時のシャルアがそうだった。魔力を吸い取られて召喚しただけの魔力を失ったヴィクナは召喚獣を具現化する事が出来なくなってしまい直ぐにシャルアを引っ込める形になった。
つまりイメージ、そして自分の魔力量とも相談した上での能力付加をしなければならず、戦闘でのとっさの使用にはかなりの頭の回転と発想力、そして冷静さを必要とする。完璧に使えればそこいらの召喚獣より便利だが、一般の人はこの力が備わって居らず、普通の召喚獣を使用する者がほとんどだった。
「ま、コレが俺の得意魔法なんだよねん」
ピゼットは説明を終えると少し自慢げに笑みを広げる。シルハは感心して「は〜」としか言葉を発する事が出来なかった。
ただでさえ召喚魔法は魔力を使う。その魔法に意志を吹き込むだけでかなりの魔力を使用するのだ。その上さらにイメージ力や頭の回転まで使用する高度な魔法を得意魔法とするなんて。
シルハは自分には到底出来ないな、と深くピゼットの力に感銘した。さすがはファンタズマのウィクレッタだ。
「ちなみに補足すると"ストーリーサモンズ"ってのは1つの呪文念唱であらゆる効力を生む数少ない魔法の内の1つなんやで」
目をキラキラと輝かせて話を聞いていたシルハにナナハは人差し指を立てながらシルハに話して聞かせる。
普通魔法というのは1つの呪文に1つの効力しか持っていない。だがこの魔法はイメージの具現化。つまり1つの呪文に対して沢山のイメージ、沢山の効力を生み出す事が出来るのだ。
「なんか凄い魔法なんですね…」
実戦で見てみたい。シルハはそう思いながらピゼットがこの魔法で生み出した人魚をまじまじと観察していた。

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あきゅろす。
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