議論の意味は不明
広場の散歩を2人で楽しんでいると、突然魔力の波動を感じた。
シルハは驚いて辺りを見回す。
ファンタズマ構内で魔法を使う者は少ない。使っても、せいぜい訓練所くらいだ。だが今この広場に強い魔力の波動を感じる。これは魔法を使う直前に体から発せられる魔力がふくれあがって、他人でもどれだけ魔力を持ってるか感じられるようになった時に初めてわかるものだ。
魔法を誰かが発動しようとしている!
それも直ぐ側で。
シルハは突然の事に身構えた。
もしかしたら、どこかのテロリストグループがファンタズマに潜入したのかもしれない。そう思うとシルハの体に緊張が走った。
「お!この魔力は確か…」
しかしナナハはそんなシルハとは対照的に笑みを浮かべながら魔力の波動を肌で感じている。シルハは不審に思ってナナハを見た。
「こっちか」
しかしナナハはシルハに視線を移すことなく魔力の波動をたどって魔力の根源、すなわち今魔法を発動させようとしている人物に向かって歩き出した。
シルハも不審に思いながらナナハの後に続く。意外に術者は側にいたようで、直ぐに根源にたどり着いた。
「《描かれた夢は生を受けて自由を手にする》」
たどり着くと、不意に誰かの呪文念唱が耳に飛び込んできた。途端に、シルハの視界が真っ青に染まる。
「ほ!?」
突然の事にシルハは何が起こったか理解できなかった。青く染まった視界は次第に光を失い真っ暗になる。それと同時に顔面に何かがぶつかって、強い衝撃にシルハはそのまま体を後ろに反った。
「ぶふっ!!」
顔面全体に何かぬるっとした物、丁度魚のようなつるつる滑る感じを皮膚に感じながらシルハはしりもちをついた。途端に視界がクリアになって、信じられない物が視野に飛び込んでくる。
「に、人魚!?」
シルハの目の前にいたのは確かに人魚だった。
くりんとした大きな目。人間で言う耳の部分には長いヒレが付いていた。
ボンキュッな、かなりのナイスバディーで上半身裸体の体を、波打つ青い髪で綺麗に隠している。その髪には金色でチェーン状の髪飾りを付け、体には青い入れ墨のような文様がいくつも入っており、それもまた体を隠すように描かれていた。
肘や人間で言えば恐らく膝があるであろう辺りにもヒレが付いており、手の指の間には青く半透明の薄い膜が張って水かきになっている。腰から下は青い鱗が付いた魚の体になっており、鱗が光を受けて七色に輝いたりもしていた。
どこからどうみても、まさしく人魚である。
「わ!ごめんな〜。大丈夫?」
突然の人魚の登場で唖然としているシルハに誰かが笑いながら駆け寄ってくる。シルハは驚いて声がした方へ顔を上げた。
焦げ茶色の髪、人魚にも負けないくるんとした大きな目。両の頬に白いテープを貼り、身長は150pほどだ。髪には一本だけヘロンとカールしたアホ毛が立っており、幼いイメージの顔にさらにほんわかしたイメージを人に与えさせている。そんな年齢不詳の顔が笑いを堪えながらシルハを見ていた。
「おいピゼット!!もっとダイナマイトバディーにしろってさっきから言ってんだろがよ!!」
シルハが事態が飲み込めずに目を丸くしながら現れた男を見ていると、後ろから誰かがその男、ピゼットに声を掛けた。
「あぁ?かなりナイスバディーじゃん!これ以上にしろってのセル?」
ピゼットは振り向いて自分に声を掛けた男を呆れたように見つめる。シルハもピゼットから視線を外してその現れた人物に目を向けた。
ぼさぼさの赤い頭をしており、すこし長い髪は後ろで1つに縛られている。白いタンクトップを着て、首からは髑髏のネックレスがたれていた。
面長の顔の左頬には戦場で付いたのか、大きな傷があった。年齢は20代後半から30代に掛けてだろう。身長は190近くあるのではないだろうか。ピゼットと並ぶとさらにお互いの身長が際だって見えて、凸凹コンビとはこういう事を言うのだろうとシルハは何となく考えた。
人魚を挟んでぎゃーぎゃー討論し合う2人を見て、シルハはどこかで見た事ある顔に傾げる。
「お久しゅうございます〜、セルマ隊長、ピゼット隊長」
シルハの後ろでこれまた笑いを堪えていたナナハが片手を上げながら現れた2人の人物に挨拶をするのを聞いて、シルハは2人の顔を交互に見た。
どこかで見た事あるかと思えば、この2人はウィクレッタではないか。セルマは8番隊、ピゼットは9番隊の部隊長である。シルハは慌てて立ち上がるとバッと腰を折って挨拶をした。
「こ、こんにちわ!!」
「ん!こんにちわ。ナナハも久しぶりだね〜ん。潜入捜査終わったの?」
「久々じゃねぁかナナハ!何ヶ月ぶりだ?」
「半年ぶりやな。潜入は一時休戦って感じですねん。また少ししたらあちらさんに戻りますよって。お2人共今日戻ってきたん?」
「うん。さっき戻ってきたんだ。セルの隊とはたまたま帰還日が被ってねん」
ナナハとピゼット、セルマは久々にあったのか、テンションを上げて会話をはずませだした。
ぽつんと取り残されたシルハは何となく自分の前にいる人魚に目を向ける。すると人魚も大きな目を自分に合わせえてきた。
先程視界が青くなったのはどうやらこの人魚の魚の部分が顔に当たったようだ。あの魚のようなぬめっとした感覚はまだ顔に残っている。
「あ、そういえばキミ大丈夫〜?もろこいつのケツアタック食らっちゃってたけど」
話が一通りすんだのか、ピゼットが人魚を指さしながら急に話をシルハに振ってきた。シルハはしげしげと人魚を観察していたので急に自分に振られてドキリとする。
「は、はい!!」
慌てて返事をすると、3人はおかしそうに笑い出した。
「ナナハが一緒って事は2番隊か?」
セルマは身を屈めるようにしてシルハを見つめる。長身だからそうしないとシルハの顔をまじまじと観察できないのだ。
「は、はい。今年入隊しました、2番隊バーサーカーのシルハ・クリシーズです」
シルハは自己紹介をすると頭を下げた。セルマとピゼットは名前と顔を記憶するように何度もシルハの名を呟きながら顔をじっと見つめる。気恥ずかしくなって、シルハは思わず俯いた。
「で、何しとったんですか、お2人ははこないなとこで」
ナナハは場を取り持つように2人に話しかける。その途端、堰を切ったように2人は口を開いて話し出した。
「そうそうナナハ聞いてよ!セルったらさ〜、俺にかなりグラマラスで超魅惑的な人魚を作れってうっさいの〜!!さっきから胸のサイズにけち付けまくって何度も作り直しさせられてるんだよね〜何とか言ってやってよ〜!!」
「さっきからもっと胸でかくしろって言ってんのにピゼがしないのが悪いんだぜ!?」
「うっさいな〜もう充分じゃん!!だいたい俺微乳派だし!!」
「巨乳だろ普通!!わかってねーなこの野郎!!」
またギャーギャー討論を始めた2人をただシルハとナナハは傍観していた。
「ぎ…議題が下らなすぎる…」
「てかそういう話になった経緯が果てしなく想像付かんな〜」
2人の隊長を見ながら、2人の男は無表情で言葉を発した。

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あきゅろす。
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