大事なのは今
食堂を出たらシルハとナナハはのんびりと中央棟から出て外の広場にでた。
ファンタズマ構内に流れる小川のせせらぎをBGMに、シルハとナナハは他愛のない話をした。
一番好きな食べ物だとか、どんな曲が好きだとか。
「で、シルりんはどないしてFANTASMA(ここ)に入ったん?」
突然ナナハはシルハを見ながら尋ねる。だが別に変な質問ではない。ここが軍事機関である以上、志願動機が気になるのは当たり前だ。
「えっと……」
シルハは何となく気恥ずかしくなって下を向く。
「たんなる…憧れです」
ナナハはタピスやフロウィと幼馴染みである以上フォスター出身の人間であるのに間違いない。そしてそれは自分みたいに望んで入ったのではない事だってあるのだ。だから、何となく"憧れ"で入ったというのは言いづらかった。
「憧れ〜。どこら辺に憧れたん?」
だがそんなシルハの心境など知らずにあっけらかんとした表情でナナハは尋ねる。なんとなく身構えたシルハはそのナナハの姿に気が抜けた。
「組織ってよりは…ケイル隊長に憧れたんです…。昔、俺の街は暴力団に占拠されてたんですが、そこで任務としてきたケイル隊長の強さに、大切な物を守ることの出来る力に憧れたんです」
いつの間にか自らの手を見つめてシルハは熱弁を振るっていた。
自分は父親を守れなかった。不甲斐ない。
だから、今度は
「守る力が欲しかった…」
ギュッと、力を込めて手を握りしめた。力が入って、微かに手がカタカタと震える。そんなシルハの様子を見ながらナナハは目を閉じた。
「ふ〜ん。そか」
口元に笑みを浮かべながらナナハは小さく頷く。
「ナナハさんは…?」
シルハは何となく、話の流れ的にナナハにも同じ質問をした。
「わい?わいは捨てられたんよ」
にっと笑みを広げながら、さも当たり前のようにサラリと口にする。
だがその内容はそんな簡単に触れて良いような物じゃなくて、シルハは歩いていた足を思わず止めた。
「お?どないしたん?」
ナナハは隣を歩いていたはずの人物が急に後ろに行ってしまったので驚きながらシルハを見つめる。だがシルハは口を開くことは出来なかった。
自分は望んでここに来て
彼は不本意にここに来て
自分は家族に愛されて
彼は家族に捨てられて
今、ここにいるのだ。
「すみません…」
気軽に理由を聞いてしまったこと。
自分の志願理由の軽さ。
全て悪い気がして、シルハは顔を伏せたまま謝罪した。そうしなければ、なんだかやっていられない気持ちになったのだ。
「何に謝っとるん?」
ナナハは相変わらず笑みを浮かべながらシルハに尋ねた。
「別にわいがここにいる理由はこれで、自分がここにいる理由はそれ。理由ってのがいっぱいあるのは当たり前で、それを気にすることなんか全くないんやで?」
理由など人それぞれで、どれも全てその人の気持ち。
シルハが本当にそう言う意志できたのなら、それは尊重されるべきだ。
不本意で来たにしたって、今自分は幸せなんだ。沢山の人に囲まれて
「要は来た理由云々ってより今がどうかが肝心って事や。だからお前が落ち込むことあらへんのやで?」
にっとナナハは笑みを広げる。それは幸せそうな顔をして
「わいは今幸せやもん。ちょいときつい事もあるけどな、わいここに来て良かった思うで?」
自分は?
そう聞かれてシルハはやっと顔に笑みを広げた。
「俺も…ここに来て良かったです」
確かにスタートの理由は人それぞれだろう。一緒の人の方が寧ろ珍しくて、そんな沢山の考えを持った人が、沢山の理由を持った人が集まるのは至極当然の事で。
そんな中で幸せになるかならないか、自分の居場所を見つけられるかられないか。それこそがもっとも重要な事なのだ。
「俺…ここに来て良かった」
シルハは再度確認した。
始まりは単なる憧れだった。
ケイルの強さ、守れる力。
目の前で父を失った自分の不甲斐なさに腹が立って
力を持つケイルに憧れたから入ってきた。
だけど、今はそれだけじゃない。
「理由聞いたんは単なるコミュニケーションの一環やて。今そう思える事が大事や。そう思えてよかったやないの」
ナナハの笑顔。この人も、心から今笑ってる事がひしひしと伝わる。
形はどうであれ、彼は今自分の居場所をここに見つけられたのだ。
「そうですね」
確かにナナハがここに来た理由は酷だった。だけど、あんな軽く口に出来た理由が今なら何となくわかる。
今幸せだから。
過去に縛られた、悲観した見方はしないのだろう。
わかると心が軽くなった。
だから、シルハもナナハに心からの笑顔を送った。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!