魔石晶
鳥の歌声が耳に飛び込んで、闇にいた意識を無理矢理浮上させる。頭であの音は鳥の鳴き声だと理解すると、急に視界が眩しくなり、シルハはギュッと目を瞑る瞼に力を入れた。
「ん…」
「ん?なんや、起きたかいな?」
くぐもった声を零せば、鳥以外の音が耳に飛び込んで、シルハは眠そうに目を開いた。
「おはようさん寝ぼすけ。太陽さんはとうにこんにちはの時間なっとるで?」
まだ白くかすむ視界に誰かの顔らしい物が自分の顔を覗き込むように見ている。シルハは目をこすって視界をハッキリさせようと何度も瞬きを繰り返した。
「まだ脳みそ起きとらん?」
「…ナナハさ…んん〜〜〜〜!!!?」
やっと視界が鮮明になって目の前にいた人物の名を呼ぶと、フリーズした脳みそが一気に活動して、驚きのあまり叫びながらシルハは体を起こした。
「お、完璧起きたみたいやな」
「ナ、ナナハさん…俺……いったい…?」
確か自分は訓練所でタピスとパルスと居たはずだ。だが今は白が基調とされたさわやかな雰囲気のある見慣れた自分の部屋、自分のベッドの中にいたのだ。
「昨日自分捜しに訓練所行ったらタッピ〜と気絶したシルりんがおるやろ?取りあえず目醒めそうな様子無かったからここまで運んでやったんや。感謝し」
ニシシと笑いながら発せられるナナハの言葉に唖然とする。シルハは一気に体が石化したみたいに硬くなって、嫌な汗が体中から噴き出した。
「す…すすすすうすす…すみませんでした!!」
バッと風を切る音を立てながらシルハは勢いよくベッドの上で土下座スタイルを作り、ナナハに向かって頭を下げる。全く記憶にないが、自分は上司に訓練所からここに運んでもらってしまったのだ。
「そんなええんよ〜!土下座せぇへんでも。おっと、そや」
シルハの素早すぎる土下座に笑いをかみ殺しながらナナハは手を下に動かして落ち着くようにと促す。それから思い出したようにポケットに入れていた丸い水晶玉のような物をシルハの前に出した。
「コレ、タッピ〜がシルりんが起きたら渡せゆうとってな、この魔石晶」
「ま、ませきしょう…?」
疑問符を付けながらナナハが読んだこの玉の名を繰り返しながらそれを受け取る。水晶玉のようにツルツルとした透明な小さい球体。その中で白銀と勿忘草色の紐のような光がゆらゆらと漂っていて、美しく発光していた。
「綺麗…」
淡い光の芸術に思わず言葉が零れる。
「コレって…?」
この綺麗な物体の正体がわからず、シルハはナナハに視線を移して尋ねた。
「ん?魔石晶ってのは自分の魔力を閉じこめて作り出したもんや。コレはキミの魔力で、色はその人の魔力の性質を表してる言うで」
「俺の魔力…?」
シルハは改めて魔石晶を覗き込んでみる。2色の光が折り重なって、小さな魔石晶の中を泳ぐように浮遊していた。
「俺と…ジルクの…」
ほとんど口を動かさずにナナハに聞こえないほどの小さな声でシルハは呟く。この色の、どちらかが自分の魔力で、どちらかがジルクの魔力なのだ。
「タッピ〜の説明だと、キミの魔力コントロールが上手くいかないのは通常じゃありえん2色の魔力の内の1色を操りきれてないからなんやて。この魔石晶と実際の魔力は連動しとるみたいで、全部この中の色が一色になれば、体ん中の魔力が全部制御できるようになった印やって。持ってな」
的を射たナナハの話にごくりとツバを飲む。確かに自分が魔力を扱えないのはその所為なのだ。
「ど、どうすれば…どんな修行をすればいいか…タピス隊長は何かおっしゃってましたか!?」
思わず身を乗り出してシルハはナナハに問いかける。ナナハは上目遣いで考えるように間を置いてから、フルフルと首を横に振った。
「実戦で磨くのが一番やて。タッピ〜が居る時は相手してくれる言うてたけど、1人修行じゃ無理や」
ナナハの言葉に、シルハは興奮で入っていた体の力が一気に抜け肩が下がる。明らかに落胆したようなシルハの様子にナナハは苦笑いを浮かべた。
「ま、そう気を落とすなや。それよか昨日は魔力吸われて疲れたやろ?今日はまだあと半日あるんやから修行のことは忘れて休めや」
ポンポンと肩を叩かれて、シルハは目をナナハの一重の瞳と合わせる。
「今…昨日って…?」
「言うたけど…なんか?」
「……みんなは」
「はぁ〜もう昼過ぎやで?とっくに任務に出発したわ」
シルハの体がさっきとは別の意味で固まる。目が点になって、間抜け面でナナハの事を見つめていた。
「ぇぇええぇぇぇぇえええええ!!!!?」
シルハの驚愕の声が隊舎に響いたのはその直ぐ後の話。

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