また対面して
ステンドグラスから透ける光を受けながら、白いその人は微笑んでいた。
「まだ任務入ってなかったんだな。助かった」
「ふふ、やっと隊の人数が集まって、明日から任務復帰なんだ」
「そうか。運が良かった」
タピスの言葉に、相変わらずの笑顔で白い人は返す。
戦場では白い悪魔と呼ばれるこの人、パルス・ウルマーダは水色の髪を光に反射させながら美しい黒髪の青年を見つめた。
「クス…ところで、何か用かい?」
首を傾げながら尋ねるパルスに、タピスはもやから手を出して、親指を立てて真っ黒なもやを指さした。
「ちょっと力貸せ」
「へぇ、頼み事なんて珍しいね。いいよ」
タピスの頼みに、彼は絶やすことのない微笑みを浮かべ、ゆっくりもやの方に歩みを進める。タピスはそれを見ると顔を引っ込めて、事態が把握できていないシルハの方を見た。
「今からパルスが来る。ちょっと見てもらおうぜ」
「へ!?」
タピスから飛び出した意外な言葉に、シルハは驚きで目を丸くする。そんなシルハの様子などシカトして、タピスはもやを通ってやって来たパルスを迎え入れた。
「やぁ、また君にあったね」
パルスは姿を現すとシルハと目を合わせ、にっこりと微笑む。シルハは心の準備も出来ぬままに急に現れた、神秘的な隊長の登場に息を止めた。
「ここ、こんにちわ」
ばっと効果音が付きそうなほど勢いよく頭を下げたシルハを見て、パルスはクスクスと笑みを零す。それからゆっくりとシルハに近づいてきた。
「そう言えば…まだ名前聞いてなかったよね…?」
「は、はい!2番隊バーサーカーのシルハと申します!」
人差し指を口元に当てて、神秘的な笑みを浮かべるパルスの顔を一度顔を上げて確認してから、シルハは再度頭を下げて名を名乗る。その様子がおかしかったのか、パルスはまたクスリを微笑んだ。
「顔上げて、緊張しなくて良いよ?」
シルハの顔を覗き込むように、少し屈んでパルスは小首を傾げる。いきなり現れた隊長に緊張するなと言う方が無理だと思うと心の中で呟きながらシルハは苦笑いを浮かべた。
急な登場で未だに心臓は早撃ちしているし、その所為で体が少し熱くて汗がじんわりと滲み出てきている。シルハは少しでも落ち着こうと、体を真っ直ぐに戻してからふうっと息をついた。
「で、タピス。僕は何をすればいいのかな?」
「ん。ちょっとアドバイスもらいたい。シルハ」
タピスは小さくパルスの言葉に頷いてからシルハに目線を映す。
「は、はい」
「ちょいとさっきのやってみろ」
タピスは腕を組んで仁王立ちをしながらクイッと顎で滝壺を指す。シルハはさっと血の気が引いた。
自分はまだ動かすどころか動物の形すら作り出せないのだ。そんな醜態をタピスだけでなく隊長であるパルスの前でまで晒すことになろうとは。
「ほれ。やれ」
「は…はい…」
タピスの様子に、何を言ったってやらされるだろうと、シルハは渋々滝壺に歩み寄る。手を水面に翳して魔力を集中させだした。
「コレを見てなんか言ってくれ」
「今から何するのかな?」
「形状イメージ訓練」
「あぁ、あれね。懐かしいな…フォスター時代に良くやらされたっけ…?」
後ろで自分の様子に視線を送りながら会話をする2隊長に若干集中力を乱されながら、シルハはそれでも一生懸命に水のイメージをする。少しずつ水が宙に浮かびだし、水の塊を作り出していった。
水の量もかなり増えてきて、なんとか直径70pほどの水球を作り出した。
「うっ…」
しかし、そこでシルハの眉間にしわが刻まれる。翳した手はフルフルと震え始め、水球がボコリと形を崩した。
綺麗な球体だった水は所々凹凸を作り出していき、次第に底が抜けたように水が激しい音を立てながら本の滝壺の中に帰って行った。
「ふはっ…はっ…」
シルハは震えた腕をだらりと下げ、荒くなった呼吸を整えるように前屈みになって呼吸を繰り返す。いつの間にか会話を無くしていたタピスとパルスは黙ってその様子を見守っていた。
「どう思う?魔力不足ではないと思うんだが」
「だろうね。ちょっと調べてみようか」
パルスはクスリと笑みを浮かべると、シルハの方に歩み寄る。シルハは少し呼吸が落ち着くと体を元に戻してパルスの方に振り返った。
「シルハ君…ちょっと目を瞑って…」
パルスはそう言うとシルハの少し汗で湿った頬に手を伸ばす。シルハは言われたとおりに目を瞑ると、今まで見えていた視界が闇に閉ざされた。
パルスも目を閉じると、シルハの額に自分の額を合わせる。するとパルスの体が薄い青色に輝きだした。
「少し疲れるよ。もしかしたら立ってられなくなるかもしれないから受け身の準備してて」
パルスがそう言うと、体の光がさらに増す。激しい光に身が包まれ、目を瞑っているはずのシルハも、眩しさにさらにギュッと目を瞑る瞼に力を込めた。
「《光に導かれ 我は全てを悟りし賢者と化す》」
パルスから紡がれた呪文が、側に居るはずなのにやけに遠くに聞こえた。
体から何かが抜かれるようにグッと力が抜けていく。急に膝が笑い出して、パルスが言ったとおりに足に力が入らず立っていられなくなった。
グラリと体が傾く。触れていたパルスの掌が、すっと自分の頬から離れていくのを微かに感じた。
「お疲れ様。少し休ませてあげてね、タピス」
最後にそんなパルスの声が聞こえて、シルハは意識を手放した。

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あきゅろす。
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