繋がった先の人物
「ぐっは〜〜!!」
「たくっ…ここまで出来ないのも才能だな…」
促されるがまま修行に励んでいたシルハだがかれこれ2時間、動かすどころか動物の形すら出来ない。
それ以前に動物を作るほどの莫大の量の水に魔力を行き渡らせて形を造形してみるのは、想像以上に難しい。シルハは息を切らしながら水と睨めっこをしていた。
「あれ?昨日より疲れる?」
おかしいなとシルハは首を捻りながら水に手を翳す。昨日の方が魔力を消費しているように思うのだが、明らかに今の方が疲れている気がした。
「お前…実戦型かもな。てか力みすぎ?」
タピスはシルハの肩に手を置いて、リラックスするように肩を前後に揺すぶる。シルハは気持ちよさそうに目を瞑って、為すがままにされた。
「もっと楽にイメージしてみろ。案外簡単に造型くらいなら出来るぞ」
タピスはシルハに前屈みになるように促しながら水面に目をやる。シルハが前屈みになると、タピスはシルハの肩を掴んで上下に揺すぶった。
「タピス隊長…」
「なんだ?」
「もう一度…造型を見せて頂けますか?」
揺すぶられて少し声が揺れながらシルハは目を瞑ったままタピスにもう一度造型を頼む。タピスはシルハの肩から手を離し、水面に手を翳した。シルハは体を起こしてタピスの魔力によって固まって浮上しだした水の塊に目を向ける。
巨大な水が宙に浮くと、タピスは口を開いて説明しながら作り出した。
「いいか?一気にイメージするんじゃなくて、一部ずつイメージしてくんだ。例えば頭から…」
タピスがそういうと、巨大な水の塊からポコリと、頭らしい球体が現れ、それが牡鹿の頭部らしい形に変形していく。立派な角もあらわれ、男鹿の頭が完成した。
「ほら、お前も一緒にやるんだよ」
ボケーッとその様子を見ているシルハの膝にタピスは力を加減した蹴りを入れる。しかし見事油断しきっていたシルハは踏ん張ってなかったせいか、そのまま膝カックンされた状態になり体中の力が抜けてしまった。
「あひ!?」
「あ…」
目の前は滝壺。見事バランスを崩したシルハは頭から水の中に落ちてしまった。
ド派手な水しぶきを上げて落ちたシルハを見て、タピスはしまったなと渋い顔をする。何が起きたかわからずに慌てふためいたシルハが勢いよく水面から顔を出した。
「ななな、何ですか!??」
「いや、説明しながらやってるのにただ見てるだけだから一緒にやれって軽い体裁のつもりで蹴ったんだが…落ちるとは思わなかった。悪いな」
あまり悪びれてなさそうなタピスの表情にシルハは思わず苦笑いを浮かべながら水からはい上がる。タピスはその様子を見ながら、何かを考え込むように手を顎に当てていた。
「……ちょいと待ってろシルハ」
「え…?はい」
タピスはいきなり作りかけの男鹿を元の水に戻してくるりと後ろを向いてしまう。巨大な水が水面とぶつかり合い水しぶきを上げるのを横目に服を絞りながら、シルハは小さく頷いた。
「《開くべき道は光を見出だす》」
タピスは前に手を翳すと、そこから真っ黒な靄が現れる。人一人くらいが入れそうな大きさの靄が出来ると、タピスは上半身だけを靄につっこみ、空間が繋がった先にいた人物に声を掛けた。
「やっぱりここにいたな。おいパルス」
タピスが魔法で繋いだのはファンタズマの敷地内にある礼拝堂。少し傾きかけた日に照らされたステンドグラスの光を見つめていた男、パルスはゆっくりとタピスの方に振り返った。
「やぁタピス。波動を感じたから来ると思ったよ」
突然背後に現れたタピスに驚く様子もなく、常に絶やさぬ薄い笑みを浮かべながら、パルスは目を細めながら返事を返した。

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あきゅろす。
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